Vol.25  2005.1.1  この号の当選番号は120と144です。

究極のメニュー

 
新年明けましておめでとうございます



先月号で「ホテルオークラ」の立食パーティの話を書いたのですが、そのことに対して「何が一番美味しかったの」とか「どんな味だったの」という質問を受けましたので、今回はその話にしましょう。


まずは、ローストビーフです。これは主催者の理事長さんが受賞パーティが始まる時にわざわざ「オークラのローストビーフを食べずして、オークラの料理を語ってはいけませんよ」と念を押したほどオークラ看板料理です。

これを語らないことには次の料理を語ることは出来ません。

ここのローストビーフの特徴はまずその肉質の良さがあります。

普通牛肉といえば飼料に由来する産地独特の臭いがあるのですが、そのような臭いは全くなく、しかも赤身であるにもかかわらず、その身はあくまでも柔らかく、噛むたびに肉汁と共にとろけてゆくのです。

しかし、それだけならばエライのはその牛を育てた農家の方であってオークラの力ではありません。

オークラの素晴らしさはその旨味を最大に活かすソースにあります。

腰のあるブランデーの香りにマデラ酒のような甘みが加わったグレービーソースを絡め、添えてある西洋わさびを載せて口に運び、ひとたび噛みしめればその味と香りが肉汁と渾然一体となって舌と鼻腔にひろがるのです。

そして陶然と噛み続け、いつの間にか飲み下した後初めて我に返るのです。

確かにこれを語らずしてオークラの料理は語れません。


そして数ある料理の中で私が一番美味しいと思ったのは「コンソメスープ」です。

資生堂パーラーのコンソメスープを「貴婦人」と例えるのならオークラのは「サムライ」です。

繊細ではないのですが複雑な味わいがあり、そして一本太い筋が通っています。

そしてその柱となるのが深いコクと「薩摩の黒豚」の背脂のような香りです。

この黒豚もそこらで売っているようなものでなく「おいどんは薩摩の芋しか喰いもさん」と豪語していそうなくらいの生粋の奴です。

もっともコンソメに豚は使わないと思うので別の食材なのでしょうが、もしかすると薩摩の黒毛和牛でも使っているのかも知れません。

ともあれこのように食材を吟味し、その持ち味を最大に活かしている所がオークラの美味の秘訣なのでしょう。


しかし、こんな贅沢は滅多に出来るものではありません。

そこで、一般家庭でも出来る究極の美味をご紹介しましょう。それは「半熟玉子のバター乗せ」です。

とろとろの半熟に茹でた玉子を殻ごとエッグスタンドに立て、殻のてっぺんを剥いてそこにバターを載せ、スプーンですくって食べるだけの料理ですが、これがやみつきになるほど美味しいのです。

マンガ「美味しんぼ」では地鶏の半熟玉子にキャビアを載せて純金のスプーンで黄身だけ食べていましたが、何もそこまでやる必要はありません。

ただ、出来ることなら玉子は特売品より、外で元気良く走り回っていた鶏が生んだものを使い、バターも出来れば発酵バターを使いたいところです。

ここまでやればオークラの朝食にも負けない究極の朝食になり、しかもかかる費用は千円以下です。

とはいえ忙しい朝にとろとろの半熟玉子を作って、優雅にスプーンで食べているヒマはあまりないかもしれません。


そこで、KURIKURI特製究極の朝食を二種類作ってみました。

一つ目は放し飼い鶏卵の黄身だけと四つ葉乳業の発酵バター、それに最高級の小麦粉と砂糖だけを使った「たまごケーキ」。

二つ目はKURIKURI自慢のスコーンの真ん中にフランス産のクリームチーズをたっぷり仕込んだ「クリームチーズスコーン」。

どちらも選び抜かれた材料の持ち味を最高に活かすように心を込めて作りました。

少し温めて召し上がっていただくと幸せな味と香りがひろがります。

ただ、モーニングで提供するにはあまりにも原価がかかってしまいましたので、期間限定でお持ち帰りのみとさせていただきました。


又、もう一つ質問が多かった受賞論文の内容につきましては、その論文が掲載されている本を雑誌の棚に忍ばせておきましたので、ご興味をもたれた方は読んでみてください。


KURIKURI