Vol.69 2008.9この号の当選番号は080と133です。

 

雅の謎


先月いただいた夏休み、家族で京都に行ってきました。


目的はもちろん「うまいもの」。

去年は桜のシーズン真っ盛りに行ったため、観光客が多すぎてなかなかおいしそうなお店に入れなかったので、今年はお盆をはずしての京都行きと相成りました。


11時ごろに祇園に着き、車を降りると目の前には舞妓はんが歩いてはります。

きっちりと日本髪は結っていましたが、まだ午前中ということもあってか着物ではなく浴衣姿。

日傘代わりの番傘がおしゃれです。


そんな舞妓さんを横目に見ながら京の都を散策したのですが、さすが千年の都、土地活用に無駄がありません。

家と家の間に隙間がないのは有名な話ですが、隙間があったなと思ったら、そこは立派な路地だったりするのです。

人がすれ違うのがやっとの道なのに、その両側がお店。

よそ者は絶対にたどり着くことができません。

朱雀大路を跳梁跋扈していた百鬼夜行もここでは一列縦隊。鬼たちが整然と歩く姿は、ちょっと見てみたいような気がします。


そんな風情のある街で、これまたみやびなお昼ご飯を食べた後は錦市場で試食&買い食い三昧・・・・と、言いたかったのですが、お盆明けのためかお休みの店も結構多く、お目当ての焼き饅頭のお店も閉まっていました。

仕方なくほかのお店で麩饅頭を買って食べたのですが、生麩に入っていた青海苔の香りのために小豆の香りを楽しめず、ちょっと不満じゅう・・・・。


気を取り直して次に向かったのが「都路里」。

和風パフェの研究の為にも、ここだけははずせません。


と、鼻息も荒く乗り込んでみたのですが・・・・店の方角にジャニーズのコンサート会場のごとき長い列。いつもより短いそうなのですが、それでもあと一時間は並ばなければならないとのこと。


こりゃだめだ・・とがっくり肩を落として道の向こうに目をやると、そこは歴史の重みを感じるたたずまいに「鍵善」の文字が・・・。

なんと都路里の目の前は、葛きりで有名な鍵善のお店。

ただ、家庭画報に載るような上品なお店なので、今回の日帰り弾丸うまいものツアーには向かないだろうと候補からはずしていたのです。

しかし、目の前にあるならば話は別、早速飛び込むことにしたのです。


中に入るとそこは静謐な別世界。

かすかな人のざわめきと水琴窟の音が見事に調和しています。


葛きりと水羊羹とおうす(いわゆる抹茶。名古屋の秋葉原ではない)を注文し、最初に出てきたほうじ茶と落雁を絶賛しつつ待つことしばし。

そして、やってきた葛きりは・・・もう「おいしい」の一言です。

つるりと滑らかな舌触りと、切れそうで切れなさそうでぷつりと切れる絶妙な弾力。そして黒蜜の薫り高きこと。

今まで食べた葛きりは葛きりではありません。

都路里のあの長い行列は、我々をここに導くための神の配慮であったに違いないと、まことに身勝手な感謝を捧げるほどのおいしさでした。


そして次に向かったのが、京都駅の伊勢丹。

京都各地の名店が数多く出店しているので、いろいろなおいしさが一気に味わえるだろうという目論見です。


残念ながら、思ったほど試食はさせてもらえなかったのですが、いろいろとお土産なんかを買って大満足。

ついでに上のほうも見てみようとエスカレーターに乗ったのですが、これが驚きでした。


普通エスカレーターは各階で折り返すように設置されているものですが、ここはなんと一直線に設置されていたのです

。直線構造は二階から十一階までだったのですが、二階でエスカレーターに乗ると視線のはるか先には十一階に上る人の背中までがおぼろげに見えるのです。

これはもう、よほどフロアに長さがないとできるものではありません。

そしてさらに驚いたのが「大階段」。

幅30mはあろうかという露天の大階段が二階から十一階まで続いているのです。

幅30mの人の波が押し寄せてくるとも思えませんし、露天である以上雨の日に使う人はいないでしょう。

しかも、その上の空間は全くの無駄です。


わずかな隙間さえも有効活用する京都の街にありながら、この広大なる無駄空間。


さすが千年の都。現代人には容易に窺い知れない謎に満ちています。

setstats