Vol.74 2009.2この号の当選番号は021と045と073と129と170です。


マネキビト

 
シオマネキというカニをご存知でしょうか?

オスは片方のハサミがやたらと大きく、そのハサミを振ってメスを誘う求愛行動が満ち潮を招いているようだと名づけられたといわれています。

しかしこのハサミ、体の割りに大きすぎるため餌をつかんでも口に運ぶことができず、オスにとっては不便極まりないシロモノなのです。

しかしそれでもメスが大きなハサミのオスを好むため、どんなに不便であろうとも、オスはメスにモテるため、せっせとハサミを大きくするように進化したのです。


そして、二月といえばバレンタイン。

女の子からの愛を勝ち取るべく、シオマネキに負けない努力を重ねたオス達の努力が報われる日です。

思えば若かりし頃、バレンタインに一つもいい思い出がないのは努力が足りなかったから。

シオマネキを見習って少しは努力をしていれば、青春時代に輝かしい勲章の一つも得られたものをと悔やまれます。


そんな私ですが、今年のバレンタインは結構努力しました。


イヤイヤ、妻子ある身の上ですからモテようなんて不埒な努力ではなく、本職のお菓子の方。

昨年末から売り始めた生チョコをバレンタイン仕様にするために、地味な努力を重ねてきたのです。


まず変えたのはその形。

味の方は十分に自信があるのですが、お持ち帰り用の9個入りは基本的に一人で食べるシチュエーションを考えて決めた形。

自分自身のご褒美なんかにじっくり一個を味わってもらう大きさなのです。

それに対してバレンタイン仕様ともなると、二人で食べることも考えなくてはなりません。

会話を楽しみながらも味わえる。そんなことを考えて、サイコロ型に決めたのです。


そしてせっかくだからバレンタイン用にもう一品。

ハート型のココットがあったので、それを使ったチョコデザートを作ってみました。


まず最初に作ってみたのが、チョコフォンデュ。

美味しい生チョコなんだから、ちょっと溶かせば美味しいチョコフォンデュができるのではないかと考えたのです。

しかしそれは甘い考えでした。

当店の生チョコは舌の上で滑るようにとろける食感に仕上げているのですが、それを温めて溶かしてしまうともう台無し。

口の中で涼しくとろける食感が失われるだけでなく、チョコが主張しすぎてディップしたマシュマロやイチゴの美味しさが半減してしまったのです。

その後、スイス製のチョコフォンデュを取り寄せたりして究極の美味しさを求め、ついに美味しいチョコフォンデュができたのですが、それはあまりにもデリケート。

溶かす温度もシビアですし、日持ちもしません。

今年はバレンタインの前日が定休日ですので、日持ちのしない商品を出すわけにもいかず、チョコフォンデュを断念したのです。


そしてその後様々なデザートを試作して、決まったのが焼きショコラ。

あったかショコラを更に進化させ、粉を一切使わず低温でじっくり蒸し焼きにする事で、いっそうふんわりしっとりと仕上げました。

この焼きショコラはそのまま食べても美味しいのですが、このふんわり感を最高に楽しむには少し温めることがオススメ。

香りもふくらみ、食べる前から幸せな気分になることうけあいです。

そして更にチョコリッチを楽しみたい方は、温めた焼きショコラに生チョコを一つ埋め込んで待つことしばし。

半溶けの生チョコと一緒に食べると、食感も香りもフォンダンショコラを上回る美味しさが楽しめます。


と、勢いに任せて書いたのですが、焼きショコラの販売はバレンタインまで。

14日過ぎにこれを読んでいるお客さんには、生チョコを味わった頂くしかありません。

生チョコの方は5月くらいまで販売していますし、年中飲み物単品にお茶請けとしてついてきます。

ただ溶かして作る生チョコと違い、しっかりと練り上げて作る当店自慢の生チョコ。その口どけの違いをぜひ一度味わってください。


と、力強く書いたものの、沢山売れると作るのが大変。

普通の生チョコと違ってしっかり練り上げるだけに、時間も力もかかるのです。

今でさえ毎日練り上げているため右腕だけが太くなりつつあります。


このままではシオマネキのように片腕だけが異常に発達してしまいそう。

でも・・・・シオマネキと違って片腕が大きいからといって女性からモテそうにありません。

せめてお客さんを招くキャクマネキにでもなれればいいと思うのですが・・・・・・・。


KURIKURI