Vol.83 2009.11この号の当選番号は029と054と076と085と092です。 

熱くて冷たければ

栗の季節が終わり、お芋のおいしい季節になりました。

保存技術が進んだおかげでKURIKURIの「お芋とりんごのケーキ」もいまや年中お出ししていますが、一番おいしいのはやっぱり今の季節。

このケーキの主成分はその名の通り「お芋とりんご」。

あとは全粒粉入りの小麦粉と発酵バターがお芋たちの三分の一ほど入り、30〜40グラムの黒糖に大匙一杯のコニャックのみ。

香料も使わず甘みもぐっと控えたこのケーキのおいしさは、素材が一番おいしい季節に一番おいしくなるのです。


そしてこのケーキのさらにおいしい食べ方が「アイスクリーム添え」。

ほっこりさっくりと温めたこのケーキにバニラアイスを添えて、メープルシロップを一垂らし。

温かいケーキと冷たいアイスが口の中で溶け合って、ふんわりとろける幸せな時間を作り出すのです。


温かいものと冷たいものの組み合わせと言えば、冷たいアイスに熱々のエスプレッソを注いだデザートが有名ですし、最近はやりの生キャラメルアイスも確か温かい生キャラメルをアイスクリームにかけていたと記憶しています。

冷めた理系の目で見れば、単に熱平衡に移動する過程に過ぎないこの現象ですが、同じような温度のものしか食べない他の動物とは違う、人間だけに許された特別なおいしさに違いありません。


そんなおいしさを追求すべく、昨日栗のアイスクリームをバーナーで炙って食べてみました。

これは先月号に書いた「焼き栗」からヒントを得たものでもあるのですが、ほんのり焦げた栗の香ばしさや、熱々の表面と内側のとろけるアイスがあいまって新しいおいしさを生み出しました。ただ問題なのは、このアツアツが一瞬しかもたないこと。

アツアツをほおばって「おいしいよこれ」と次の人に差し出したときには、もう表面はすっかり冷め、あの人類にだけ許されたおいしさはすっかり影を潜めてしまっているのです。

お客様に出せるようになるには更なる工夫が必要です。。。


さて、アツアツと冷たいものの話を書いていて急に思い出したのが、かつてのおぞましい記憶。


それは独身時代、様々な料理に挑戦していた頃の話です。


確か料理漫画か何かに載っていたと思うのですが「アイスクリームの天ぷら」を作ってみようと思い立ったのです。

作り方はいたってカンタンで、アイスクリームの周りをカステラで包み、衣をつけて揚げるだけ。

それ以前にも天ぷらやフライものには何回も挑戦しているので、細かいつくり方なんか見なくても大丈夫・・・・と作り始めたのですが・・・。


まず最初の誤算は私の手の暖かさ。

割と体温が高いほうなので、生チョコの箱詰めのときなんかにも苦労するのですが、この体温のためにアイスクリームが溶けること溶けること・・。

至る所をビタビタにしながらも何とか包み終えて、衣をつけると温めておいた油に投入。

ジュワジュワと揚がり始めたのを確認して、二個目を投入・・・・・っと思ったそのとき、ジュワジュワという音がジュルジュルという音に変わるとともに、油の表面にモコモコと泡が膨れ上がってくるじゃありませんか!!

新入社員が注いだビールのごとく膨れ上がった泡は、意外なほどに高くそびえたった後、一気に鍋の外に・・・・。


幸い火事にはならなかったもののレンジの周りは油だらけ、しかも当の天ぷらは生焼け(生揚げ?)の癖に妙に色黒・・・。

敗因はやはり作り方をしっかり読まなかったこと。

中のアイスが外に溶け出さないようにしっかりとカステラのふちを閉じておかなければならなかったのに、いい加減に丸めただけだったので中のアイスが溶け出してしまっていたのです。


それでもせっかく作ったのだからと勇気をだして一口。熱々の衣の中から生き残った冷たいアイスクリームのバニラの香りと・・・・・・・青魚の香り。

記憶をたどれば、以前にその油を使ったのは南蛮漬けのために小アジを素揚げした時。

あまりにおぞましい味だったため、記憶の倉庫にお札を貼って封印しておいたのですが・・・今思い出しても気分が悪くなるほどのまずさでした。


教訓:
熱くて冷たければおいしいというわけではない。


KURIKURI