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栗を割る

先月末にやっと販売開始にこぎ着けた「マロンショコラ」。

先月号のエッセイでは「完成まであとわずか」と豪語していたにもかかわらず、完成まで一月ほどもかかってしまったのは「迷い虫」に取り憑かれてしまったから。

この迷い虫、デザートの試作を始めると必ずやってきて、「これでいいのか~」「もっと美味しくできるんじゃないか~」と耳元で囁く困ったヤツ。

こいつのせいでいったん決めたレシピに迷いが生じ、毎回ぎりぎりまで試作を繰り返す羽目になるのです。

とはいえ、デザートが始まる日は決まっています。

どんなに迷い虫が怒鳴り散らそうとも、水曜日には新デザートが始まるのです。

一方マロンショコラに締め切りはありません。

気が弱い私には、迷い虫の囁きに抗する術がなかったのです。

思えば、試作も最初の頃はお気楽でした。

わたし的に世界一美味しいチョコレートだと信じているベルギーチョコに選び抜いた国産栗の渋皮煮ですから、美味しくないわけ無いじゃないですか!

そして実際に作ってみても確かに美味しい。

でも・・・・迷い虫が囁くのです。

「結局チョコが美味しいだけじゃないの~」・・・と。

いわれてみると確かにチョコの美味しさに栗の美味しさが隠されてしまっています。

では栗を紅茶に漬け込んで香りに変化を与えてみよう・・・と、試作したのが先月号のエッセイを書いたあたりです。

そしてこの紅茶栗も美味しかったのですが、それが栗の美味しさを引き出しているのかというと、脳内に疑問符が雨後の竹の子の如く生えてきます。

「そっか、チョコの風味が強すぎるから栗の美味しさが引き出せないんだ!」と、今度は同じメーカーのホワイトチョコを使って試作試作試作。。。。

ホワイトチョコを極限まで大量に使ったホワイトガトーショコラは、クリーミーな香りが栗の風味と相まって絶妙の美味しさです。こ

れならオッケーだろうと思ったのですが、またまた迷い虫が囁きます。

「それって、贈るショコラって名乗れるの?」 

むむむ、、、確かにホワイトチョコではチョコレートの感じがほとんどしません。

これを食べて「う~んショコラ~♪」と心の底から思えるのは、よほどのホワイトチョコマニアか根っからの嘘つきのどちらかでしょう。

ではどうする?

脳内倉庫にあるチョコレート箪笥の引き出しを、取っ手もとれよとばかりに次々と引っ張り出し、記憶を探る事しばし。

見つけたのは五・六年前にチョコに懲りまくった時に食べたフランスのバローナ社のチョコレート。

あのフルーティな香りならば栗の美味しさを隠すことなく引き出せるのではないか?

さっそくバローナ社を中心にフランス製のチョコレートを何種類か取り寄せて試作したところ、とあるメーカーのビターチョコがビンゴ!

香りの方向が栗と程良くズレている上に、微かな酸味が栗の甘みと実に良く調和するのです。

ただ、若干香りが弱いような気がするのでブランデーと和栗のリキュールを生地に加えて焼き上げたところ・・・何とも良い香りです。

一日寝かせて試食すると、これがウマイ!特に飲み込んだ後の鼻から抜ける香りに、チョコと栗の香りが渾然一体となった何とも表現できない膨らみを感じるのです。

この香りは冷えている時よりも室温くらいまで温まってからの方が感じやすいので、召し上がられる際には切ったあと少しおしゃべりをして時間をつぶしてから口に運ぶことをオススメしますが、とにかく新しい美味しさなんです。

さぁて、ここまですると、さすがの迷い虫もどこかに引っ込んだらしく口を出しません。

よっしゃ、完全勝利!とばかりに腰に手をやると、なにやら違和感が・・・。

試作&試食の日々を送ったために、おなかがぽっこりと栗のように丸く出っ張っています。

さすが迷い虫、ただ引っ込むだけでは済まさないようです。

なんて感心している場合じゃありません。出っ張ったものは引っ込めねばなりません。

ぽっこりおなかの対策をネットで検索してみると「究極の腹筋法!これなら100日でシックスパックになれる!」なんてのがあるじゃないですか!

たった三ヶ月で仮面ライダーの如く割れた腹筋が得られるならばと始めたのが「ドラゴンフラッグ」という腹筋トレーニング。

ベンチに仰向けに寝そべって、両腕を頭の後ろに回してベンチをむんずと掴み、両足を尻ごと浮かせるという人間業とは思えない運動です。

ライザップのCMを思い浮かべながらやっているのですが、腹筋がつくどころか筋肉が裂けて内臓が飛び出そうなハードさに、赤井英和氏のどや顔が二回も浮かぶ頃には息も絶え絶え。

とはいえ、週二回のペースで今日が三回目なのですが、既に腹筋はかなり固くなってきています。

もしかすると・・・・

栗腹が割れる日も近いかもしれません。


KURIKURI