186号の当選番号は 011 015 124 130 190  です。

思い出のマンハッタン


五月の天気には泣かされました。
晴れたり降ったり、暑かったり寒かったりと洗濯や衣替えのタイミングに悩んだ方も多かったことでしょうが、私が泣かされたのはそこではありません。
私が泣かされたのは味覚です。
人間は気温によって微妙に味覚が変わります。
暑い時には苦いモノや酸っぱいモノがより美味しく感じられ、寒い時には甘いものがより美味しく感じられるのです。
そこで翌日の気温が暑くなりそうだと予想されたなら、翌日お勧めにする予定のコーヒーの焙煎をやや深めにしたり、パフェに使うムースの甘さを微妙に控えたりしています。
それを一日で見事に使い切れればいいですし、その次の日まで暑ければ特に問題はありません。
いや、暑くなくても普通の気温なら問題は無いのです。
それがTシャツ一枚で額の汗を拭いた翌朝に寒さで目覚めるなんて事もあったくらいですから困ったのです。
まぁ、実際には自己満足程度の味の差なので、お客さんにはあまり関係の無いことかもしれませんが。。。
 さて、そんな五月の連休明けにちょっと福岡の実家に行ってきました。
新幹線日帰りの強行軍で、実家にもほんの数時間しかいなかったのですが、楽しみだったのが甥っ子と十年ぶりの再会。
彼の母である妹の話によると、若かりし頃の私に瓜二つで、電話の話し方とか行動パターンもそっくりとのこと。
しかも大学は私の後輩で、学部こそ法学部で工学部出身の私よりも格上ですが、ローマ字表記ならHとKの違いしかありません。
そんな甥っ子が噂の叔父に会ってみたいということで、彼のバイト先である天神で待ち合わせることにしたのです。
福岡の天神とは愛知の栄みたいな場所で人通りが半端じゃありません。
そんなところで十年も会っていない甥っ子の姿がわかるのか?
キョロキョロと見渡すと、一人の青年と目が合った瞬間にわかりました。
確かに若い時の私にソックリ!
彼にしてみれば将来の自分です。
三十年前と三十年後の奇跡の邂逅。
テレビの再現ドラマならロッキーの「エイドリア~ン!」と叫ぶシーンの音楽がBGMに使われそうな場面ですが、現実には一週間ぶりの友達に会ったかのごとく「やぁ」と片手を上げただけ。
その後なんの実もない話をして別れたのですが、実に楽しい時間でした。
そして彼と別れた後、新幹線の時間まで天神の街を散策したのですが、これがまた懐かしかった。
地下街やビルは中身を一新しているところが多かったのですが、商店街は昔のままのところが多く残っていたのです。
喫茶店や洋菓子店が残っていたのはともかく、本屋さんまで残っていたのは嬉しかった!
三十ン年前の学生時代、上下巻の二冊を買う予算がなかったので上巻を丸々一冊立ち読みして下巻だけを買ったという前科があるお店なのですが、私のようなお客さんばかりでなかったようで何よりです。
そしてもう一つ嬉しかったのが「大隈カバン店」。
子どもの頃から「作って売ってるぅ~、オ~クマ鞄店♪ぴょんぴょんぴょん♪」というテレビCMで知っていたランドセル専門店なのですが、一度も利用したことはありません。
それなのに嬉しくなったのは、ここが「作って売っている」お店だから。
少子化の波や大型店の台頭にも負けず頑張っているのには、業種こそ違えども同じく「作って売っている」お店としてエールを送らざるを得ません。
とはいえ当店は、ただ「作って売ってる」だけではありません。
パティスリーやフルーツショップ系列などのお店でも自家製ケーキやパフェの店は珍しくありません。
しかし、アイスクリームに至るまですべて自家製のところは少ないですし、珈琲まで自家焙煎しているところはさらに少ないでしょう。
おまけに二週間に一回の新作です。
このことを同業の関西人のおっちゃんに話したら「そこまでやるとか正気のサタデーナイト・フィーバー!イェイ!!」とトラボルタのポーズまで決めてくれたのですから、同業者から見ても正気の沙汰ではないのでしょう。
(サタデーナイト・フィーバーの意味がわからない若者は、google先生か執事のsiriさんに尋ねてみてください) そして話を戻して、今回の福岡行きで後悔しているのがマンハッタン。
九州では有名なサクサクのチョコドーナツのような菓子パンです。
天神界隈を散策している時にあちこちで見かけたので懐かしくなり、帰りに買って帰ろうと決めていたのです。
しかし、いざ帰りがけに買おうと思ったら博多駅界隈ではどこにも売っていないじゃないですか!
行く時には別に食べたいとは思っていなかったのですが、食べられないとなると猛烈に食べたくなるもの。
学生時代には何も考えずバクバク食べていた菓子パンが、今脳内では「青春時代を代表する美味」のレベルまでランクアップしてしまっているのです。
きっと次に帰省する時には、何をおいても買い求め、ところ構わずかぶりつくことでしょう。
 ついでに言うと、あくまでもついでですが、当店の新作パフェは一度作ったものは二度と作りません。
「お腹いっぱいだから今度食べよう」なんて考えていたら、もう一生食べられないかもしれないのです。
私のマンハッタンのように悔いを残さないためにも、「食べたい」と思ったら、即座に注文することをお勧め致します。



KURIKURI