190号の当選番号は 062 082 110 137 189 です。

豚と私


天低く、豚痩せる秋。
次々に襲いかかる台風や居座る秋雨前線で、週間天気予報にお日様の顔は一つか二つだけ。
そして養豚場で発生した豚コレラは野生のイノシシにまで感染し、終息の気配がありません。
この厄災続きの秋は、KURIKURIのデザートにも影響しています。
それは栗。
秋は栗を使ったパフェを次々と出していく予定なのですが、美味しい栗の確保が大変なのです。
店休日の朝一番に朝採れの栗を買いに行くのですが、何と言っても入荷が少ない!
台風の後は言うに及ばず、大抵前日に雨が降っているものですから入荷している栗は例年の半分程。
しかも大きさも揃っていませんし、朝採れのハズなのにカビが浮いていたり変色しているものも少なくないのです。
そんな栗達を、殺人現場に偶然居合わせたコナン君のように注意深く観察し、厳選して買ってくるのですが、それで終わりじゃありません。
まずはじっくり蒸し上げてから栗剥きです。
例年なら保存性をあげるために、鍛え上げた栗む筋を駆使して栗の鬼皮を剥き、栗の形を残します。
しかし、今年はパフェの出る量が多く、ロスも多いのでのでそれでは間に合いません。
二つに切ってスプーンでくり抜く簡易バージョンでの栗剥きです。
従って今年鍛えられるのは「栗む筋」ではなく「栗くり抜筋」になるのですが、そんな話はさておいて、まずは二つに割ったところで茶色く変色していれば捨てます。
そして色がきれいでも匂いを嗅いでみて、少しでも香りに異常があれば捨てます。
そして中をくり抜き、殻の匂いを嗅いで少しでも異常があれば抜いた栗をすくって捨てます。
今年は雨のせいか、この捨てる量がハンパない。
作業が終わってみると取れた栗の重さよりもゴミ袋の方が遥かに重いのです。
しかし、この作業こそが美味しさの秘訣。
この時期、コンビニから高級洋菓子店まで様々な和栗デザートを出していますが、大抵は工場で作られた和栗ペーストを使っています。
この和栗ペーストも海外で栽培された和栗品種の栗に香料やマロンリキュールで香りをつけただけのものから、国内の工場で採れたての和栗をペーストにしたものまで様々あるのですが、「とらや」クラスの最高級店に卸すもの以外は一個一個香りまでチェックしたものはありません。
地味で単純な作業ですが、この作業があるからこそ、高級店に負けない自然な香りを楽しめるのです。
このように、栗の実はポイポイと捨てられるのですが、じつは私は捨てられない人です。
タンスの中にはもう何年も袖を通してない服がずらりと吊られていますし、家電やパソコンは直せる限りは修理しまくって動かなくなるまで使い倒します。
しかも、動かなくなった家電品などは、捨てる前に使えそうなパーツを抜き取っておいたりするものですから、引き出しの中には得体の知れない電子基板や様々なサイズのネジ類がぎっしりと詰まっているのです。
そして困ったことに、得体の知れない部品が何年か後に他の家電の修理に使えたりするものですから、ますます捨てられなくなっているのです。
捨てられないのは服やパーツだけではありません。
食べ物だって捨てられません。例えばパフェの飾り。
毎回新作を出すたびに新しい飾りを作っているわけですが、その陰にはボツになった飾りも結構いっぱいあるのです。
いや、飾りばかりじゃありません。アイスやケーキだっていっぱいボツになっているのです。
しかし、ボツになったからといってそう簡単には捨てられません。もしかすると何回か後のパフェに使えるかもしれないじゃないですか。
そんなわけで、ただでさえ新作パフェのパーツで満タン状態の冷蔵庫に、捨てられない食材が限界まで押し込まれているのです。
そして再び栗剥きの話ですが、この作業は結構退屈です。
しかも短くて二時間以上、長い時は六時間以上もかかります。両手が塞がっていますから本は読めません。
となると、映画を見るくらいしかないのですが、栗を取り出す時や中身をチェックする時には目を離さざるを得ませんから、本格ミステリや感動の名作は見られません。
そうなると娯楽作品になるのですが、そんなに熱中できる作品には出会えません。
そしてまだ鍛え上げられていない「栗くり抜筋」も疲れてきます。
そんなわけで休憩を取ることが多くなるのですが、ここには美味しい珈琲も紅茶もあるので、休憩=お茶タイムとなります。
そうなると、甘いものが欲しくなるもの。
そして冷蔵庫には、無尽蔵と言える程の甘いものが・・・・。
「天低く、我肥ゆる秋」とならないか心配です。。。



KURIKURI