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混沌から究極へ


「また言ってるぅ」と思われそうですが、パフェがネタ切れ寸前です。
バックナンバーを読み返してみると、ほぼ三ヶ月に一回くらいはエッセイでこのネタ切れネタを使っているので、ただのネタじゃないかと思っている方もいるかと思いますが本当なのだから仕方ありません。
そもそも二週間に一つ、夏には毎週ペースで新作を出しているのですから去年だけでも三十以上もの新作パフェが生まれているのです。
今までネタがもったのが奇跡だと思って頂きたい。
そんな話はさておき、私は片付けが苦手です。
今は嫁さんがいるので何とか人類らしい暮らしをしていますが、外部の手が入らなかった独身一人暮らし時代は酷かった。。。
本好きなので月に一万円以上本代につぎ込んでいたのですが、それを片付けるという概念がなかったのです。
このため床一面に本が散乱して地層を形成するほど。
昔読んだ本を探そうと地層を掘れば、いつのものともしれぬ靴下が発掘され、その靴下が挟まっていた示準化石(月刊誌)により一年三ヶ月前のものと推定されるといった出来事もありました。
この時は結局探していた本は見つからず、靴下が挟まっていた雑誌を読んだような気がします。
もし結婚していなかったなら今頃は本の山に埋もれ、辞書に挟まれた四つ葉のクローバーのようにペラペラに乾いていたかもしれません。
このように片付けが苦手なものですがら、パフェ試作の週は大変です。
通常は量が多くても種類は少ないので、散らかると言ってもたかがしれているのですが、試作は何と言っても作る種類が多いのです。
テーブルの上は沢山のボウルや型でラッシュアワーの通勤電車のごとくギッチギチ。
へたに動かせばカップが倒れて計量済みの粉にかかり、それを慌てて拾い上げると端っこのボウルが床に転げ落ちるといった地獄の連鎖反応が起こります。
何とか無事に混ぜ合わせてオーブンやアイスクリーマーに放り込み、容器などを洗おうとすると今度は流しに様々な道具が積み上げられていて、終盤にさしかかったジェンガゲームのごとく崩壊寸前の有様。
そしていざ試食となっても、どれを何%にしたかなどのメモを貼り忘れていて、どれが何だかわかりません・・・。
まぁそのへんは食べれば何とかなるのでいいのですが、とにかくきちんと作る人に比べて圧倒的に無駄な時間を使っているのは間違いありません。
さて、散らかると言えば、私の脳は記憶が散らばるタイプです。
人の脳には脳科学で言うところの「categorization」という「入ってきた情報を分類整理して記憶する」能力があります。
この能力が高い人が、いわゆる秀才と言われる人で、入ってきた情報が綺麗に分類されているため引き出すのに時間がかかりません。
ですからお医者さんや弁護士のように膨大な知識を瞬時に引き出さなければならない仕事に向いていると言えるでしょう。
一方、私のようにcategorization能力の無い人は記憶が順番に押し込まれているだけなので、覚えていてもその記憶を見つけるのが大変です。
先月号のエッセイで高校の半ばまでまるで勉強ができなかったと書きましたが、原因の一つはこれ。
一生懸命勉強して覚えても、テストになるとまるで思い出せなかったのです。
今はそれを克服して家庭教師の教え子に「これはこうやって覚えればいい」なんて偉そうなことを言っていますが、記憶が散らばっていることに変わりはありません。
このため思考に時間がかかってしまうのですが、悪いことばかりじゃありません。
記憶が散らばっている人は、発想力が高いのです。
記憶がきちんと整理されている人は、図書館の本棚のようなもの。
探している本を即座に見つけることはできますが、その過程で他の本を見ることはありません。
一方私の脳は部屋中に本が散らばっているようなもの。
目的の本を探すのに時間がかかりますが、その過程で予想もしなかったような本(や靴下)に出会うのです。
この散らかりまくった記憶のおかげで、研究職だった会社員時代には毎日喫茶店に入り浸っていても叱られない程度の成果を上げ続けましたし、今も次々に新しいパフェを生み出す事ができているのです。
しかし私ももう54才。
波平さんと同い年となり、一昔前なら定年間近なお年頃です。
ちょっと前までは、一度決めたレシピはそのパフェが終わるまで忘れることはありませんでしたが、今では数日空くとメモを見なければ作れなくなってきています。
ニワトリは三歩進むと前のことを忘れてしまうと言いますが、私もだいぶトリ頭化が進んでいる様子。
まだ記憶の蓄積速度が忘却速度を上回っているからいいのですが、逆転する日は近そうです。
今はゴミ屋敷のごとく記憶が散らばりまくった私の脳も、いつかモデルルームのようにすっきりとしてしまうのでしょう。 そうなると新しいパフェを作ろうにも、組み合わせを考えることもできなくなるのでは・・。
と思ったのですが、消え去っていく記憶は大抵なくても何とかなる記憶ばかり。
最後に残るのはきっと失いたくない重要な記憶のハズ。
ならば最後に残った記憶で作るパフェは、最高の組み合わせでできたパフェに違いありません。
二週に一度の新作が四週に一度、季節に一度となり、遂に固定化された時、それは究極のパフェが完成したという事です。
お楽しみに!!



KURIKURI