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パフェ工学


この原稿を書いている時点で作っている「紅茶と塩キャラメルのパフェ」の試作は大変でした。
甘いキャラメルにわずかな塩を加えて甘さに深みを出すのですが、ホンの0.1グラム入れすぎただけでくどい甘さになってしまうのです。
まぁ試作の量が一回100グラム位しかないというのもあるのですが、それにしても0.1グラムは厳しすぎ。
私が使っている秤は一応0.1グラム単位で計れる奴なのですが、こいつにとって0.1グラムとは0.06グラムから0.14グラムまでを指しているというアバウトさなので、おなじ量をはかりとって使っても味が同じにならないのです。
そこでどうしたかというと、粉飴という甘くない砂糖90グラムに塩を10グラム加えたミックス粉を作ったのです。
この粉1グラムが塩0.1グラムにあたるので、これまでよりずっと正確に塩の量を量れるようになり、何とか美味しい塩キャラメルが作れるようになりました。
しかし、結局作った塩キャラメルは紅茶アイスに混ぜて使うことにしてしまったので、多少の塩加減は関係なくなってしまったのですが・・・。
 
まぁこの程度の工夫なら、製菓学校に通えば一学期の1時間目に習うような初歩的な技術なのかも知れません。
しかし一度も製菓技術を学んだことのない私にとって、二週間毎に作る新作パフェは毎回新技術への挑戦のようなもの。
もし私が文系人間であったなら、とうに諦めていたかも知れません。
理系の、しかも工学系であったからこそ、新作パフェを作り続けることができたのではないかと思っています。
 
ちなみに、理系には工学系と理学系があるのですが、これは外部の人間には区別がつきにくいかも知れません。
例えば画家ならば芸術家系とデザイナー系がいるようなもの。
どちらも絵を描くという点では一致しているのですが、芸術家系は自分の満足のために絵を描き、デザイナー系は見る人の満足のために絵を描くように方向性が異なります。
これと同じように理学系も工学系も論理的に物事を考える点では一致しているのですが、理学系は原因を追及し、工学系は結果を追求するのです。
例えば「100mを10秒以内で走れ!」という課題を与えられたとしましょう。
これは一般人には無理なタイムですから、理学系の人はなぜそれが不可能であるのかを生物学や統計学を駆使して理路整然と説明してくれることでしょう。
しかし工学系は違います。
「どうすれば可能か」をひたすら考えます。
今の私はゾウガメに鼻で笑われるほどの鈍足ですが、高校時代には100mで12秒を切り「帰宅部最速の男」と自称するほどの俊足でしたから、鍛えれば15秒くらいにはなるでしょう。
残り5秒をどう縮めるか。遠隔操作でストップウォッチを5秒ほど遅らせる装置が作れないか?靴底に火薬を仕込んでその爆発力で速度を上げられないか?
さんざん悩んだ末に思いついたのが「カーブでは外側のラインと内側のラインの中央部で距離を計測する」というルールを活用(悪用)すること。
コースの幅が1.5mなら直径1.5mの半円ラインを交互に並べるくねくねとした100mのコース(~←こんな感じで道幅が1.5メートル)を作れば、コースを外れることなく一直線に最短距離を突き進むことができます。
そしてその距離およそ65メートル。100mの三分の二弱ですから、計算上は10秒以内に走れるはずなのです(`^´) ドヤッ!
 
と、明らかにどうでもいい考察を続けてきましたが、このようにどのような手を使おうと求められた結果を出そうとするのが工学系なのです。
そしてこの裏技的解決方法で塩濃度問題を解決したのが、飾りに使っている「塩キャラメルチョコ」。キャラメルと違ってチョコの場合には一度固めないと味を確認できない上に、飾りなだけにちょこっとしか作らないので加える塩もさらに少量になってしまいます。
そこで、濃度のことはきっぱりと諦めて岩塩の粒を散らすことにしたのです。
表面にのった塩はごく少量でもしっかりと塩味を感じられるだけでなく、すっと消えてなくなるので甘みがくどくなりません。
そこで家にあったアルザス産の岩塩を金槌で砕き、二種類のふるいで適当な大きな粒にそろえて、絞り出したキャラメルチョコに振りかけたのです。
これで誰憚ることなく塩キャラメルと名乗ることができるようになりました。
しかし、禍福はあざなえる縄のごとし。世の中いいことばかりじゃありません。
練り込めばどこも均一に塩が入るのですが、振りかけただけでは偏りができてしまうのです。
あるところではしょっぱく、またあるところではささやき声でしか「塩キャラメル」と名乗ることができない程塩がかかっていないところができてしまいました。これを解決と呼んでいいものか。。。
いや、いいのです!どんなことでも無理だと諦めてしまえば先に進むことはできません。
そして一歩でも先に進めば、そこに新しい道が生まれるのです。
 
と、いうわけで、今回のパフェがイマイチだと思ったとしても、きっとより美味しいパフェが作れるようになるはずですから、見捨てずにまたチャレンジして頂きたい!



KURIKURI