233号の当選番号は 012 017 148 152 158 です。

あなたはすでに


当店で二週間ごとに出している新作パフェは、二度と同じものを出さないことをモットーとしております。
しかしそれはパフェ本体の話であって名前の方は別。
わかりやすいネーミングには限りがあるので、同じような名前を何度も使い回すこともあるのです。
それでも一応は気を遣っていて、例えば今月の「イチゴとレモンのパフェ」は去年の「イチゴとレモンの春パフェ」を少しだけ縮めるというマイナーチェンジを行っています。
 
使い回しといえば、最近驚いたのが「北斗の拳」。
ケンシロウの決め台詞「おまえはもう死んでいる」が原作中ではたったの一回しか使われていないというのです。
イメージ的には敵を倒すたびにこの台詞を言っていたような気がしていたのですが・・・。
こんなカッコイイ台詞を使い捨てにするとはさすが世紀末の覇者、肉体のみならず言語脳まで鍛え上げられているようです。
私も彼の爪の垢でも煎じて飲まねばなりますまい。
・・・と、思ったのですが、よくよく調べてみると確かに「おまえはもう死んでいる」はカサンドラ編の一回だけですが、第一話ではまだ慣れていないのか「おまえはもう死ん でる」とちょっと噛み気味に言っていますし、最終話では「おまえは すでに 死んでいる」と若干わかりやすさに配慮した言い回しになっています。
他にも「おまえ」が「きさま」に変わっただけのバージョンもあり、ケンシロウなりに同じ言い回しにならないよう工夫した様子がうかがえます。
ようはケンシロウがやっていることも私がやっているのと同じようなもの。 爪の垢なぞ飲まずとも私も北斗神拳の使い手になれるかも知れません。
 
そんな話はさておいて、先月最大のイベントだったのが親知らずの抜歯。
残っていた三本の内ちゃんと生えていた一本が虫歯になってしまったため、かかりつけの歯医者さんに行ったところ「奥歯を圧迫してるので横向きの親知らずも抜かなければならないのですが、ここでは手に負えないので県病院に行ってください」と、恐ろしいことを言うじゃないですか!
そして県病院に行ったところ「二本は問題ないのですが一本が大きい上に湾曲しているので覚悟してください」と、さらにオソロシイ宣告。
この時はその後も歯茎を切開してどうたらとか歯を分割してこうたらとかいう説明も聞いたハズなんですが記憶に残っていない程の放心状態。
その後まわりの人に抜歯体験を聞いても、「身体が持ち上がる程引っ張られた上に一時間以上かかった」とか「抜いた後にドライソケットになって、この世のものとは思えぬ激痛を味わった」など、まるで夏の夜の稲川淳二のごとき恐怖譚のオンパレード。
そこで何とかいい体験談はないものかとフェイスブックにアップしてみたところ、ここでもやはり恐怖体験が次々に寄せられたのですが、ついに神が現れたのです!
その方はラスボス級の親知らずが丈夫な骨にしっかりと癒着しているという、私以上に難儀そうな抜歯だったにもかかわらず、術中術後も痛みはなかったというのです。
しかもそのレスの締めくくりが「大丈夫です、すでに無事です」という未来予知を完了形で表すというケンシロウ的予言になっているじゃないですか。
いや、ケンシロウの予言は絶望しか与えませんが、この予言は希望を与えるという真逆の効果。
ウロシンケ的予言とでも呼ぶべきでしょうか。
そしてこのウロシンケ予言の効果は絶大でした。
麻酔こそちょっとチクッとしたものの、歯を抜くときは引き抜くというより取り出すだけという感覚でしたし、歯を分割するときも爪切りでパチッと切る時程度の振動があっただけ。
術後も一応痛み止めを処方されたのですが、疼くことすらなかったので飲む必要はありませんでした。
これを読んでいる方の中には今後親知らずの抜歯を予定している方もいらっしゃやるかも知れませんが、心配いりません。
大丈夫です、すでに無事です(丸パクリ)。
 
ここまで読んだ方の中には「それは予言の力ではなく医学の進歩のおかげなのでは?」と思った方もいらっしゃるかも知れませんが、それはちょっと違います。
術前の不安感が違うのです。
これがもし「私は全然痛みませんでしたよ♪」だったなら「そんな幸運な人もいるんだ」と思っただけでしょうが「すでに無事です」とまで断言されたら安心するしかないじゃないですか!
この術前の安心感が術中術後に大きな効果を与えたと思うのです。
 
それにしても他人が行う未来の出来事を、すでに起こった事として断言できるとは只者ではありません。
たぶん21世紀の覇者となる方なのでしょうが、おかげで無事に抜歯が終わった以上何か恩返しをせねばなりますまい。
と、若かりし頃なら思ったことでしょうが、トシをとってくると若干考え方も変わります。
恩を返してしまえば「めでたし、めでたし。」で終わってしまいます。
いや、下手すると恩返し目当てで全国の地蔵に笠をかぶせたり、あらゆる動物を罠から解放する輩が現れないとも限りません。
受けた恩は相手に返すのではなく、次の誰かに送るべきではないかと思うのです。
以前このテーマで公募エッセイ(お笑いエッセイではなく真面目なエッセイ)を書いたときに、この行為には「恩送り」という名前があるのを知りました。
そこで何かいい恩送りはないかと見渡せば・・・・おお、ランチの後にパフェが食べられるか心配してる人がいるじゃないですか。
そんな方のために当店のランチは量控えめに作っているのです。
 
私からウロシンケ予言を贈りましょう。
「大丈夫です、あなたはすでに美味しいパフェを完食しています」




KURIKURI