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超絶的魅力


先日、小学生とおぼしき女の子から「美味しいパフェのこだわりは何ですか?」という質問を受けました。
たぶん学校の宿題か何かなのでしょう。
メモを片手に真剣な眼差しで見上げられると、こちらとしてもいい加減な答えで済ませるわけにはいきません。
しかし「美味しいパフェのこだわり」とは?
パフェを美味しく作ることにこだわってはいるのですが、それでは答えになりますまい。
絶対に同じパフェを作らないことにこだわってはいますが、これも質問とズレてます。
脳内の走馬燈をフル回転させてみたところ、命の炎が尽きる前に思い出したのが十数年前に食べたパフェ。
行列のできるフルーツパーラーで食べたそのパフェは、それはそれは舌がとろけてしまう程美味しい果物がドドンとのっていたのです。
しかし、食べた後に思ったのは「これって果物だけで食べた方が美味しかったんじゃない?」ということ。
完成された美味しさに、アイスやゼリーをあわせてしまうと、結果として美味しさが下方修正されてしまうのです。
そこでその子には「ウチのパフェは一つ一つのパーツが一番美味しくなるように作っているんじゃなくて、他のパーツと一緒に食べたときに一番美味しくなるようにする事にこだわってます」と答えました。
ちょっと首をかしげていたようなので、上手く伝わったか不安なところではあるのですが、きっとお母さんが解説してくれたことでしょう。
 
パフェを食べるということは、姿を目にした瞬間から器の内側に残ったクリームをスプーンでカシカシするまでの一連のストーリーを楽しむこと。
完全無欠の主役がひたすら活躍するだけの小説なんて読んでも疲れるだけだと思いませんか。
私が好きな小説は、主役だけでなく脇役たちもキャラが立ち、意外な伏線を回収しつつ、ラストできちんと着地するようなストーリーのもの。
そんなわけで当店のパフェに使っているアイスクリームやゼリーなどの多くはわざと少しだけ欠点を残して、ほかのものと一緒に食べたときにより美味しさが膨らむようにしているのです。
 
そして欠点といえばお気に入りの欠点を持っているのが「カシス」。
酸っぱいし渋みもあるし、果実としては欠点だらけなのですが他の果物と合わせると一気に味が膨らみますし、チョコアイスにちょっぴり入れると苦みが抑えられて、甘さをぐっと控えてもカカオの味が引き立つのです。
今回のフルーツサンドパフェでは単体でアイスクリームにしましたが、この酸味が他のアイスやカスタードのおいしさをぐっと際立させてくれるのです。
盛り付けではわざと後ろの方に隠しましたが、実は主役級の役割を担っているのです。
 
ついでに言うと、人間もまた欠点がある方が魅力的なもの。
完全無欠の人間なんていないにしても、あまりに欠点を隠されてしまうと付き合いにくいもの。
欠点を個性として堂々とさらしてくれる人は魅力的だと思いませんか?
そして私の数ある欠点の一つは、恐ろしく字が汚いこと。
私が書いた伝票はとてつもなく読みにくいのですが、それは私の魅力の一つであると思っていただきたい。。。。
 
さて、先々月号のエッセイで「日本語は難しい」という話をしたので、バランスをとって今回は日本語のすばらしさを語ろうじゃありませんか。
まずは表音文字が生み出す豊富なオノマトペ。
「にこにこと笑う」のか「ゲラゲラと笑う」のかだけでもその人のキャラクターが浮かび上がってきますし「ヌタリと笑う」人なんか絶対過去になんかあったヤバイ奴に違いないじゃないですか。
それに音だけじゃありません「にこにこ笑う」人はちょっと人の後ろに引いた感じがしますが「ニコニコ笑う」人は率先して何かをやってくれそうじゃないですか。
このように二種類の表音文字があるだけでもすごいのに、そこに表意文字である漢字が加わると最強です。
お医者さんに「気管支が炎症を起こして水疱ができているので刺激物を避けて安静にしてください」と言われれば特に医学の心得がなくても脳内で漢字変換して理解できますが、英語圏で英語を使って一般人に理解してもらおうと思ったら三行分程使った長い文章が必要になるそうです。
また数学や科学や社会を自国語で学べるのも凄いこと。
多くの国では自国語に専門用語を表す語彙がないために高等教育は英語でせざる得ないのだそうです。
日本では先人達が外来語を表意文字の漢字に変換してくれたおかげで、専門用語でも漢字で考えれば何となく意味が分かるようになり、複雑な学問でも自国語で学べるのです。
 
さてさて、その素晴らしき日本語を駆使して書き続けてきたこのエッセイ。
たった一か月で使い捨てにするのはもったいない!
そんなわけで二年半ほど前にお気に入りのエッセイを集めた「美味しいパフェの食べ方」というタイトルの電子書籍をアマゾンで出版したのですが、この度ついに紙書籍でも出版することになりました。
当然アマゾンでも買えるのですが、店頭でも自っ賛販売中です。
販促ツールとしてAKBみたいに握手券とかツーショット券とかをつけようかと思ったのですが、どう考えても逆効果なのでやめました。 しかし、買っていただければもれなく全力の笑顔が付いてきますし、超絶乱筆でよろしければサインだってしちゃいますので、ぜひともご購入いただきたい!




KURIKURI