Vol.3 2002.3.1 この号の当選番号は027です。
絵の具で十分
独身時代、毎週月曜日には私の部屋に後輩達が集まって、お腹がはち切れるまで晩ご飯を食べるという妙な習慣がありました。
その時に作っていたデザートの数々が今のKURIKURIのケーキの原形になるのですが、ある雛祭りの日に珍しく女子社員のグループも参加するというので「桜餅」をつくってみようと思い立ちました。
まず作ったのはあんこ。
瀬戸川饅頭のように口に入れた瞬間に「舌の上がスッと涼しくなる」程さらりと溶けるこしあんを作る自信はなかったので、小豆の香りを活かした粒あん作りに挑戦しました。
料理本片手に初めての作業でしたが、滅多に来ない「女子社員♪」のために最上級の丹波大納言小豆を買ってきたのが効いたのか、口に含んだ瞬間にふっくらとした香りが鼻腔に広がるおいしい餡が出来ました。(瀬戸川饅頭:瀬戸の川村屋賀栄というお店で作っている銘菓)
後は食紅で色付けして蒸した道明寺で包み、桜の葉を巻けば完成なのですが、ここでいつもの悪い虫が騒ぎ始めました。
「本のとおりに作って悔しくないのか?」。
この虫のためウチに来ていた後輩連中は時としてとんでもないものを食べさせられました。
そして、その時思いついたのは苺。苺大福がおいしいんだから、道明寺を染めるのに苺を使えばおいしいに違いない。
早速「とよのか」を買い求め、果汁を絞って染め上げるときれいなピンクになりました。
「ふっふっふ、オレ様って天才?」と喜んだのも束の間、大きな誤算があったのです。
食事会の最後に出すと、野郎連中はいつものようにがつがつと食べ始めたのですが、苺の香りのことにはまったく触れないのです。
「苺の香りもわからん貴様らなんかにゃ絵の具で十分!!」と怒りに燃えながら自分でも食べてみると、確かに苺の香りはほとんどしません。
蒸した時に香りが飛んでしまったのです。これでは言われなければ気がつかないのも無理はない。
しかし、女子社員達はさすがに香りが違うことに気がついてくれました。
そして、その内の一人は餡や桜の香りに惑わされず「苺の香りがする」とまで気がついてくれたのです。
心を込めて工夫をすれば、ちゃんとわかってくれる人がいる。その気持ちを今も胸にとどめて毎日ケーキを焼いています。
蛇足その1:わかってくれた女子社員が、今ヨメさんになっているという噂が・・・。
逆犬年齢
「土曜日学級」の話が写真入りで大きく新聞に載ったため、いろいろな方から様々な反響がありました。
その中で一番多かったのが「くりさんって結構おじさんだったんだ」という、かつてキャンプに連れて行った子達からの声でした。
個人的には三十才で年をとるのをやめているとはいえ戸籍上では三十八才、連中から見れば立派なおじさんのトシです。
どうやら三十前後と踏んでくれていたのが三十八と知って驚いたようです。
最近こそ若く見られることが多くなってきましたが、高校生時代には友達と歩いていてさえ選挙カーから唯一握手を求められ、新入社員なのに子持ちバツイチの中途採用と噂されるほど、かつては老けてみられていました。
成犬は一年間で人間の四年分ほど年をとると言いますが、どうやら私は十代の間は急速に年をとり、その後約二十年は逆にゆっくりと年をとっているようです。
今後どんな老化曲線を描くのか?急上昇しないことを願っていますが「少年老い易く、ガクッと成り難し」というから大丈夫か・・・。
いかん!オヤジギャグだ。脳の老化が進行している!
蛇足その2:持ち帰り用に序章と二章が置いてあった「土曜日学級」の全文を600円で販売中!