Vol.13 2003.1.1
この号の当選番号は050と082です。
半魚人
メニューのレシピを見ると判るように、KURIKURIではケーキ作りにレミーマルタンのVSOPをよく使っています。
このお酒はコニャックのなかでも薫りにクセがなく、他の素材の持つ香りをふんわりとふくらませてくれるのでケーキやアイスクリームを作るには実に都合がよいのです。
例えばカミュのようなお酒だと薫りの中に少し辛みを感じさせるのでバナナのケーキのように腰のある甘い香りだとうまく調和するのですが、バニラのような香りだとその持ち味を少し損ねてしまいます。
そして、このお酒にたどり着くまでに何種類かのお酒を試したのですが、試すお酒としてレミーマルタンを選んだのには少しだけ不純な動機がありました。
時はバブル真っ盛りの頃。当時バリバリの新入社員だった私はとある試験機の選定のためにあるメーカーを訪ねました。
当然新入社員の私にはン千万もするその機械の購入決定権はないのですが、学生時代から妻子持ちに間違われていた外見のためか、そこの部長に接待に連れ出されたのです。
そして連れて行かれたのが、バニーちゃんのいる高級そうなバーで、席に着くなり部長が頼んだのがレミーマルタンだったのです。
それだけなら私の記憶にはバニーちゃんだけが残ったことでしょう。
しかし渡されたメニューを見ると、貧乏学生時代に見慣れていたメニューとは0の数が違い、レミーマルタンはグラス一杯で10000円もしたのです。
しかも出てきたのは、グラスこそは金魚の一匹くらいは飼えそうなくらい大きいのに、肝心のお酒はメダカでさえ背中がでそうなくらいチョビっとしか入っていないのです。
そんなわけで私の頭にレミーマルタンは、バニーちゃんの記憶と共に「高級品」の三文字がくっきりと残されたのです。
そしてその後、お店を始める前にケーキ作りの研究をしていた時、レミーマルタン一本が例の一杯の三分の一程の値段で売っているのを見かけ、つい買ってしまったのです。
そんな不純な動機で選ばれたレミーマルタンですが、結果としては大成功でケーキやアイスクリームだけでなく、アングレーズソースやカスタードクリームにとKURIKURIにとって無くてはならないお酒になったのです。
とは言ったものの・・・いいお酒に安易に頼りすぎていたことを思い知らされる出来事がありました。
先日、名古屋のキルフェボンに行ってきました。すごく並んでいるという噂だったのですが、平日の朝一番という事もあったのか、それほど行列は長くなく十分少々で店内にはいることが出来ました。
そして、おすすめの紅茶とコーヒーとカボチャのブリュレと季節のフルーツタルトを頼んだのですが、そのお味は・・・・・・・・・・・・美味しかった!の一言につきました。
紅茶は外で飲んで美味しいものに出会うことは滅多にないのですが、口で息するのがもったいない程いい香りのする美味しいものでした。
そしてケーキ!
絶妙の柔らかさと香ばしいサクサクタルトも当然美味しかったのですが、何より感動したのは素材の良さ!
ただのカスタードがお酒を使わずにここまで美味しくなれるのか!!
本当に目から鱗が落ちまくりテーブルの上に山を作るほど驚きました。
キルフェボンにはお酒もたくさんおいてあったのでお酒を使ったケーキもあったのでしょうが、使わずにこれまで美味しくできるという技術の高さを思い知らされました。
そこで、今回のデザートではカスタードに使う卵を厳選し卵本来の持ち味を活かすことに挑戦しました。
色々な卵を試し、KURIKURIに合った味と香りの卵で作った、お酒のおいしさに頼らないカスタードです。
まだ、これで最高のものとは限らないのですが、今までとはひと味違う美味しいものが出来ました!!
それにしても先月号も書いたように最近やたらと目から鱗が落ちまくっています。
さすがにこれだけ鱗が落ちると魚類の血でも混ざってはいないかと不安になります。
父は船乗りだったし・・まさか・・・。