Vol.16 2003.4.1
この号の当選番号は144と164です。
美女とスコーンと論文の微妙な関係
以前書いたように、私はこの一年半ほど論文にハマッています。
そして、これも以前に書いたように論文書きは、料理やお菓子づくりとよく似ています。
お菓子づくりでは、例えばチーズケーキを作ろうと思ったら、まずどんな食感や見た目にするかなど大まかな方向を決め、それに合わせて素材や調理方法を選んで組み合わせていきます。
論文でも、たとえば「日本の下水道の将来」等というお題が与えられると、まず「地球環境を改善する」といった大雑把な方向性を決め、それに合わせて様々な素材となるデータをインターネットなどから拾い集めてきます。
これらの素材は国や自治体や下水道協会といったまっとうな資料を使うことが多いのですが、これらの資料ばかりを使って正面から勝負していては長年下水道に携わってきた人などに勝てるはずもありません。
自分の持っている別方面の知識と組み合わせて、他の人が考えないような論を展開する必要があるのです。
当店で出しているニューヨークチーズケーキも、ケーキの知識に加え「動物性の旨味と植物性の旨味を組み合わせると単独で使うよりも、より強く旨味を感じる」という知識を使って、「昆布の旨味を加える」という離れ業で旨味の強いケーキに仕上げています。
そして論文でも、これと同じように長年取り組んできたような人達が思いもつかないような組み合わせで審査員の目から鱗を飛び出させるようなことを考え、論理を組み立てていくのです。
この作業が楽しくてハマっているのですが、実はこれ、あまり効率のいいことではありません。
先に書いた下水道の論文も「シアノバクテリア」という微生物を組み合わせ、二酸化炭素の削減や地球規模での砂漠化防止という壮大なストーリーをでっち上げたのですが、結果は佳作にも引っかからず、入賞したのは正統派の論文を書いた役所の水道局の人ばかりでした。
結局去年の暮れまでに一年半で十六本の論文を書いたにもかかわらず、賞を頂いたのはたったの三本。打率二割にも満たないのです。これがプロ野球なら即刻クビになっても文句は言えないところでしょう。
そして、お菓子づくりでも意表をついた組み合わせが成功した例は少なく、たいていは「いい素材」を選ぶことで何とかおいしいモノを作っているのが現状なのです。
やはり邪道が王道に勝のは難しい・・・・・・・。
ところで「去年の暮れまでに」と書いたことでコナン君並に鋭い推理力を持った方は気づかれたかと思いますが、実は今年になって論文を書いていません。
これは別に書くのが嫌になったわけでも何でもなく、ただ単にこの時期懸賞論文の公募がないからだけなのです。
しかし、マラソンランナーが三日も走らないと体調を崩すように、又は毎日おやつを食べている人が甘いモノ断ちをすると菓子売り場で暴れたくなるように、毎日モノを書く生活に慣れてしまうと、何も書かない日が続くと指がプルプルと震えだします。
そこで今、少年少女マンガ誌の原作小説のコンテストに応募すべく「ティーファイト」という紅茶ネタの小説を書いています。
そして、その中で主人公がゴージャス美女とスコーン対決をするというシーンがあるのですが、そのためにインターネットで調べまくっていたら、とてもおいしいスコーンを食べたというエッセイを見つけました。
正確にはそれはスコーンではなくフランス北部のお菓子なのですが、色々と調べてみると作り方も配合もスコーンによく似ていましたので、フランスのスコーンといってもいいでしょう。そしてそのスコーンを再現すべく、色々な素材を試していたらとてもおいしいスコーンが出来てしまいました。
おちゃらけた小説から生まれたスコーンですが、作り方は論文と違って、良い素材を使って昔ながらの手順で作っています。
新しく生まれ変わったKURIKURIのスコーンをぜひ、お試し下さい!