Vol.27 2005.3.1
この号の当選番号は104と133です。
初老のヒヨコ
先日テレビを見ていて驚きました。
「初老」とは四十歳を指す言葉だったのです。
「そーか、ワシももう老人の仲間入りかのう」と盆栽ライフ誌の定期購読の検討を始めながらも続きを見ていたら、初老の方々で紹介されたのが「阿部寛」「椎名桔平」「ブラッド・ピッド」
・・・・・カッコイイじゃないですか。
「そーかそーか、私も彼らとお仲間か」などとすぐに浮かれてしまうあたりに老化現象の兆しが見えるわけですが、四十というのはなかなかいい年齢です。
二十代ほどの体力はありませんが知識と経験を積んだ分広い世界があり、二十代が校庭を全力で駆け回っているとするなら、四十代には多治見市内をジョギングする程度の体力と広がりがあります。
このままうまく年を重ねていけば百を過ぎる頃には体は動かなくても心は宇宙を駆けめぐっていることでしょう。
さて、熟成によって良さが増してくるのは人間ばかりではありません。
例えばバニラビーンズ。
バニラの木から収穫しただけでは、あの甘い香りは殆どありません。
何度も何度も発酵させて熟成を重ねる事によって生まれるあの香りは、化学的に合成されただけのバニラエッセンスにはない複雑なふくらみがあります。
のバニラビーンズを更にブランデーに漬けて熟成したものと、同じようにブランデーに漬けて熟成したドライフルーツを焼きこんだのが「熟成フルーツケーキ」ですが、これも焼きたてよりも二週間以上じっくりと寝かしたものの方が美味しいのです。
して最近のお気に入りは発酵バター。
フレッシュバターに比べるととても香りが豊かなこのバター、少々値段が高いこともあって以前は使っていなかったのですが、スコーンに使うようになってから手放せなくなり、最近はクレープの皮やカスタードにも使っています。
この発酵バターの良さを最大に引き出したのが、お持ち帰り用に作っている「KURIKURIのたまご」ケーキです。
発酵バターの風味に負けないように卵も厳選したのですが、その結果選ばれた卵の高いこと。
しかも白身は使わないという贅沢な作りのため異常にコストが高い商品になってしまいました。
これもまた、焼いた当日よりも二三日おいた方が美味しいのはいうまでもありません。
ちなみにこの商品は、ケーキ型がなくなり次第終了する予定ですので三月いっぱいはあると思うのですが四月中にはなくなってしまうと思います。
さて、熟成と言えば珈琲豆にも熟成させるという手法があります。
これは、コーヒーの生豆を三〜五年程寝かせてから焙煎する方法で、寝かせることにより角が取れて円熟した味わいになるのです。
しかし、この熟成豆を美味しく焙煎するのは至難の業です。
もともと焙煎ではそれぞれの豆が持つ個性を引き出すことが大切なのですが、寝かせることにより個性が薄れてしまうのです。
この薄れた個性を最大に引き出して元の豆より美味しく焙煎するのには、私の師匠曰く、少なくとも二十年はかかるというのです。
「まず、試行錯誤の十年、そして試行錯誤で身につけた技に磨きをかけるのに十年、そしてその技を壊すところから熟成豆の焙煎は始まる」のだそうです。
店を始めてから七年半、石の上にも三年と言いますがまだその四倍以上も修行が必要なのです。
人間界では初老の身ですが、珈琲界ではまだヒヨっこ。
のんびりと盆栽ライフを眺める日々はまだまだ遠そうです。