Vol.31 2005.7.1
この号の当選番号は035と070です。
犬の生活
まずは業務連絡。
去年娘が小学校に入学してから、月に一度第三土曜日も定休日とさせていただいておりましたが、七月と八月は金曜日のみの定休とさせていただきます。
もともと土曜日の休みは、たまには娘を遊びに連れて行ってやらねばという事でとらせていただいたものなので、毎日が日曜日の「夏休み」は敢えて休みをとる理由がないのです(去年はうっかりとってしまいましたが)。
夏の間は「今日は第何土曜日だったっけ?」などと気にせずにご来店下さい。(註:現在は金曜日だけの定休で、娘の長期休みの時などにたまに臨時休業を頂いています)
さて、先月は味覚の話をしましたので今月は嗅覚の話をしましょう。
美味しさには当然「味」も大切ですが、匂いもかなり重要な役割を果たします。
例えば麦味噌や米味噌で作った味噌汁は煮立たせると美味しさは半減してしまいます。
これは麦味噌や米味噌にはアルコールが含まれている事が原因です。味成分は煮立たせても変わらないのですが、香り成分がアルコールと一緒に飛んでしまうため味気なく感じてしまうのです。(ちなみに豆味噌はアルコールをほとんど含まないために煮込んでも香りがあまり抜けません)
このアルコール、煮込み料理の時には香りを飛ばす厄介者ですが、香りが出にくいものの香りを引き出す効果があるため冷たいデザートでは重宝します。
例えばアイスクリーム。
果物にはエステルというアルコールによく似た成分があるため冷たくても香りは出るのですが、紅茶のアイスクリームなどではアルコールの助けなくして紅茶の香りは出せません(香料を使えば話は別ですが)。
当店の紅茶のアイスクリームは通常の紅茶の六倍もの茶葉を使って作っているのですが、それでもアルコール無しでは口に含んでしばらく経たないと紅茶の香りは感じられません。
しかし、これにたった一匙のレミーマルタンを加えるだけで、口に含んだ瞬間に豊かな紅茶の香りが鼻腔にまでひろがっていくのです。
ところで、嗅覚といえば私はこれまで一度の無嗅覚と三度の「犬鼻」を体験しています。
無嗅覚は読んで字の如く全く嗅覚がない状態で、カレーを食べても何も感じないどころかワサビでさえなんの刺激も感じなかったのです。
これは全く原因不明で三日ほど続いたのですが、何を食べても美味しくなく、このまま一生美味しい物が食べられなくなるのではと、かなり不安な日々でした。
そして「犬鼻」ですが、これは私が勝手に付けた名前で異常に嗅覚が鋭くなることです。
二回はカゼの引き始めに、そして残り一回は全くなんの前触れもなく唐突に訪れ、半日ほど続きました。
この「犬鼻」状態を一言で説明するのはやっかいなのですが、たとえて言うなら「匂いの形が隅々まで見える」状態です。
ハンバーグを食べているのなら使っている香辛料を全て感じ取るのは当然として、肉が牛肉だけなのか合い挽きなのか、全ての匂いがくっきりと判ってしまうのです。
これは一見いいことのようですが結構困りものでした。
巨大なポスターを近くで見ると色点が一つ一つ見えてしまって見にくいように、匂いもあまりくっきりと判ってしまうと一つ一つの匂いが気になって全体の調和を楽しめないのです。
ただこの「犬鼻」、嗅覚は鋭くなったけれど強くはならなかったのは幸いでした。
もし、こんなにはっきり判る状態で、微かな匂いまでくっきりと判ってしまっていたら、近所中の晩ご飯まで判ってしまいとても普通には暮らせません。
あのCMに出てくる匂い鑑定士のおばさんの日常生活は大丈夫なのだろうか、人ごとながら気になってしまう今日この頃です。