Vol.42 2006.6.1 この号の当選番号は068と111です。

有から無を生み出す

今年の五月は「五月雨」続きだったためか、元教え子や知人からいつもより多くの「五月病」の話を聞いたように思います。

さんざん入試や就職活動で苦労して入った割に充実感が得られない・・・・しかも雨・・・。

気持ちはわかりますが、そう簡単に充実感なんて得られるものではありません。

私もさんざん苦労して大学に入った口ですが、「さすが○○大学」と思えるようなことをやったのは四年生の夏を過ぎてからですし、会社に入ってからも一年くらいは数さえ数えられれば猫でもできるような仕事ばかりでしたから。

このため私も大学に入ってしばらくはやさぐれていたのですが、社会人時代は五月病とは無縁でした。

なぜなら・・・・生きるのに手一杯だったからです。

以前にも書いたように大学時代ビンボー学生生活を送った私は「初任給」なる大金を手にしたとたんに舞い上がってしまい、アッという間に使い果たしてしまったのです。

おかげで平成バブルのまっただ中を昭和枯れススキのような赤貧で過ごす羽目になり、五月病などといってたそがれているヒマはありませんでした。

それでも前半は使える「残り物」も豊富にあったため、スープを作った後の鶏ガラを具にしてカレーを作るなどもでき、食生活は意外にバリエーションに富んでいました。

しかし後半に入ると「残り物」もなくなった上に買うことのできる食材も限られ、最後の一週間は「たまご、もやし」の組み合わせだけで何とか生き抜いてきたのです。

まぁ、いくら赤貧とはいえ次の給料日までの期間限定ビンボーですから気楽なものです。

たまごともやしだけと言えばかなり寂しいごはんのような気がするでしょうが、ほぐしたゆで卵をもやしと炒めて卵とじにした「なんちゃって親子丼」なんかは自分で自分に「ビンボー料理大賞」をあげたいくらいのできばえで、限られた食材ならではの工夫を存分に楽しんだとも言えるでしょう。

そしてこのビンボー時代の工夫は、現在のデザート作りにもフルに生かされています。

KURIKURIの期間限定デザートは、当たり前の話ですが期間を過ぎればメニューからはずれます。

この時デザートに使った物が全てなくなっていればいいのですが、たいていの場合そうはいきません。

このため余った食材はわが家のおやつとなるわけですが、デザートと同じ組み合わせは試食で何度も食べているためちょっと飽きています。

そこでかつてデザートで余ったものを冷凍しておいたものや、モーニングや他のケーキで使っている食材などその場にあるものを組み合わせて食べるのですが、時にそれは想像以上のおいしさになるのです。

こうしてKURIKURIのデザートは日々進化し、同じ名前のデザートでも次の時には微妙に組み合わせが変わっていくのです。

今月のマンゴークレープもグレープフルーツムースも前回好評のデザートですが、それでもやっぱり中身の組み合わせは少し変わっています。

さて、「あるもの」の組み合わせといえば六月から期間未定の定番となった「焼きハヤシ」。

テレビで見た「焼きカレー」の真似をして、残ったハヤシソースにいつもストックがある玉子をのせて、チーズトーストに使っているチーズやクロックムッシュに使っているパルメザンチーズをかけてトースターで焼いてみたのが始まりです。

その後も多少は工夫を加えたものの、基本は「あるもの」の組み合わせ。

しかし、その「あるもの」から今までにない新しいおいしさが生まれまたのです。

ぜひ一度お試し下さい。


KURIKURI