Vol.46 2006.10.1 この号の当選番号は128と150です。

秋と言えば

秋はお菓子づくりに丁度いい季節です。

おいしい食材が数多く出回ることも当然いいことなのですが、菓子職人としてはこの気温も嬉しいのです。

お菓子づくりに欠かせないバターは、室温に戻してから使うことが多いのですが、冬は冷蔵庫から出しておいてもカチコチに固まったままですし、夏は分離してしまうので出しっぱなしには出来ません。

これが今の季節だと前の晩に出しておけば朝一番から仕事にかかれ、実に効率がいいのです。

それに何より嬉しいのが、この時期だと生チョコが簡単なのです。

私が作る生チョコは、普通の生チョコよりも少し手がかかっています。普通は温めた生クリームとチョコレートを「滑らかになる」まで混ぜて作るのですが、私の場合そこでは終わらず、一旦分離したものが「ヌルリと滑らかになる」まで混ぜ続けるのです。

ただ、この「ヌルリ」がくせ者で、混ぜる早さとチョコレートが冷める早さがうまくかみ合わないと永遠にこの状態にならないのです。

特に夏場は大変で、室温では「ヌルリ」ゾーンの温度にならないため冷やすのですが、冷やす早さが早すぎても遅すぎでもうまくいかず、何度もやり直すために下手すれば三十分以上もひたすら混ぜ続けることになるのです。

それがこの時期だとうまくすると五分くらいで仕上がってしまうのですから嬉しいじゃないですか。

しかしこの生チョコ、ベルギー産の高級チョコレートと生クリームだけでなく、高級ブランデーのレミーマルタンまで入っているのに、普段の扱いは飲み物単品で頼まれたお客様への「おまけ」です。

これは上に書いた手間のために沢山作れないからなのですが、今の時期ならデザートに使うことも可能です。

そこで「栗と生チョコのクレープ」として10/28〜11/9の期間限定デザートとして使うことにしました。この機会にぜひご賞味あれ!


さて、秋と言えば連日新聞をにぎわせているように「蜂」の季節でもあります。

以前にも書いたように「蜂に刺されやすい体質」の私としては不安な季節なのですが、かつてこんなオソロシイ体験をしたことがあります。

会社員時代の休日、有り余る暇をもてあましていた私は、意味もなく山林の中でバイクを走らせていました。

季節は秋。

うっすらと紅葉の始まった木々を眺めながら、ふと視線を落とすと太股になにやら不吉なシマシマが・・・。

そう、巨大なスズメバチが太股にへばりついていたのです。

多分とまったのは麓で信号待ちの時、あれから十分以上も貼り付く羽目になった蜂は激怒しているに違いありません。

下手に速度を落とせば襲いかかられる気がし、映画「スピード」さながらに速度を落とさず走り続ける羽目になったのです。

手で払えば良さそうなものですが、カーブの多い山道で片手運転は危険ですし、第一触るのがコワイ。

かつてバイクで走行中に通りすがりの蜂に刺された身としては、そしてその前の年に靴の中に入っていたスズメバチに刺された身としては、そう簡単に触る気にはなれません。

直線で急加速したり曲芸のようなガニ股でカーブを曲がってみたりと、傍目には気が触れたとしか思えない孤高の闘いを続けること十数分、遂に闘いに終止符を打つ時がやってきました。

赤信号。

極力蜂を刺激しないように止まり、目をそらしたまま呼吸を止め「私は石」と思いこむこと約一分。

石を刺す気になれなかったのか、アホを刺すのは毒の無駄だと思ったのか、蜂はどこかに飛び去っていったのです。

私の人生で最も怖ろしい三十分間でした。皆さんも蜂には気をつけましょう。



KURIKURI