Vol.49 2007.1.3 この号の当選番号は112と166です。
極上のおいしさ
明けましておめでとうございます。
今年もより一層お客様に「おいしい幸せ」を感じていただけるよう頑張ります!!
と、言ったものの「おいしい」とは実に難しい問題です。
感動しまくった本が他の人のレビューでは「つまらなかった」の一言で済まされていたりすることがあるように、人の感じ方は十人十色。
時々考えすぎて味の迷宮に迷い込むこともしばしばです。
かつて珈琲のイロハを教わった店長さんは、おいしさについてこんな事を言っていました。
「五感で感じるおいしさには限界があるけれど、心で感じるおいしさには限界がない」と。
焙煎機を前に「熱伝導が」とか「含水率が」などと理系根性丸出しで焙煎理論を追求しようとしていた私に「おいしさは技術だけで決まるモノではない」と戒めた言葉なのでしょう。
実際このお店は店員さんの教育もしっかりしているため店内の雰囲気はいつも穏やかで、いつ行っても心ゆくまで珈琲の香りを楽しめたものです。
しかしこの言葉は、九州有数の名店で焙煎の技術を極めた店長だからこそ言える言葉でしょう。
限界から遥か遠い位置にいる私にはまだまだ技術の向上も必要です。
と、ここまで言ってふと気がつきましたが、かつて限界からほど遠い味でありながら涙が出そうなほどおいしい珈琲を味わった覚えが・・・。
あれは社会人になりたての頃のゴールデンウィーク、福岡への里帰りをバイクで行ったときのことです。
渋滞を避けるために出発は夕方。
たっぷり昼寝をとったとはいえ眠くなったときのために寝袋を持ち、昼間は汗ばむほどとはいえ夜は冷える可能性があるので厚手の革ジャンを着込み、と万事行き当たりばったりな私にしては充分すぎるほどの準備を整えて出発しました。
途中大阪で夜食を食べたあたりまでは極めて順調でした。
しかし中国自動車道には地獄が待ちかまえていたのです。
それは寒さ。
12時を回るあたりから急激に冷えだしてきたのです。
慌ててサービスエリアに入りバイクを止めるとそのまま転倒。
凍えた足に力が入らずバイクを支えられなかったのです。
やむなく眠ることにしたのですが、寝袋の中ですら寒くて眠れません。
着替えをすべて着込んだ上で缶コーヒーを1ダースほど買い込んで湯たんぽ代わりにし、やっと眠ったのですが一時間も経たないうちに缶コーヒーの冷たさで目が覚めました。
じっとしていれば命の危険がありそうだったため、丸まると着ぶくれた上に更に雨合羽を着込んで先に進むことを決めました。
しかしどんなに着込んでも寒さは忍びこむのです。
サービスエリア毎に停まっては、身もだえする達磨のように着ぶくれた体を動かして温めながら進むこと数時間、関門橋を渡る時に丁度上り始めた朝日が背中を温め、やっと生命の危機を脱したのです。
そして橋の向こうのサービスエリアでバイクを降りて合羽を脱ぎ、ポケットに入っていた生冷たい缶コーヒーを飲んだ瞬間、この世のものとは思えぬほどのおいしさを味わったのです。
と、いうことは・・・限界にほど遠い私の珈琲でも、窓を開けてお客様が命の危険を感じるほどに店内を冷やせばきっと極上のおいしさが・・・・・なんてことはないか。
と、言うわけで今年もお客様が満足できる雰囲気作りだけでなく、おいしさの技術向上にも努めますので宜しくお願いいたします。