Vol.52 2007.4 この号の当選番号は073と099です。

苦いニシン                          

今これを読まれている大半の方にとってはもうすでに終わったことなのですが、4月5日の木曜日は臨時休業にさせていただきます。

理由は例によって娘のため・・・というか、娘が一緒に遊んでくれている内に娘の想い出の中に父の姿を紛れ込ませておこうという父親のわがままです。

このため娘とお店の休日が合う春休みの間に一回は想い出に残るようなお出かけをしたかったのですが、親子してバタバタと体調を崩し、やむを得ず春休み最終日の五日にお店を休むことに決めました。

行き先は京都(予定)。

桜咲く京の街で日本の雅を満喫してくるつもりです。

しかしよくよく考えてみると、これまで私は数え切れないほど京都に行っています。

交通手段も、自動車、バイク、新幹線と様々ですし、コースも名神、国道1号線、国道21号線琵琶湖渡り、鈴鹿の山越えなど色々な道を試しています。

その中でも一番記憶に残っているのが「鈴鹿の山越え」。

確か新婚の頃だったと思うのですが、当時まだバブルの余韻に浸る会社員で、しかも週休二日のため有り余る暇を無駄に費やしていた頃の話です。

季節は冬、多分12月。

暇な二人は京都にニシンそばを食べに行くことにしたのです。

そして、晩ご飯を食べに行くのに高速道路を使うのはもったいないし、夕飯までにはまだ時間があるのだからと「鈴鹿の山越え」コースで行くことにしたのです。

しかしそれがマチガイでした。

冬山・・・それは下界人には測り知れぬほど怖ろしいところだったのです。

天気は曇りがちでしたが、麓までのドライブは快調でした。

四日市あたりで多少の渋滞があったものの予定どおりに鈴鹿の麓までついたのです。

しかし上り始めると俄に雲が多くなり雪がチラホラ。

それでも時折晴れ間も見えていたので大丈夫だろうと高をくくって上っていくといつの間にか辺り一面雪景色に・・・。

これは危険だと思いチェーンをつけようとしたのですが、トランクを開けると中は空。

そういえば、夏頃にエコロジードライブとか言って車内の不要不急なものはすべて物置にしまい込んだような記憶が・・・・。

しかしもう峠にさしかかっていたため意を決し、地球にやさしく自分に厳しいエコドライブを続けることにしたのです。

幸い車通りはほとんどなかったため、這うような低速で走ればスリップすることもなく、何とか無事に山越えを終えることが出来ました。

そして山越えを終えてみれば下界には雪の痕跡なんかまるでなく、乾いた路面を一路京都へ。

やっとたどり着いた京都の街。

しかしあまりに遅すぎました。

店はあらかたシャッターを下ろし、開いているのは飲み屋ばかり。

やっと見つけたおそば屋さんは、予定していた和心溢れる雅なお店ではなく、サラリーマンが酔い覚ましに一杯食べて帰るようなところ。

それでも何とか温かいおそばで身も心もほぐれ、帰る気力もわいてきたのです。

そして帰りは当然高速道路。

もう絶対冬山には行かないぞ、などとヨメさんと話していると目の前に不吉な白い影が・・・・。

それは、関ヶ原名物の雪。

何とか無事に帰ったものの、二度とやる気にはならない「ニシンそばツアー」。

今でもニシンそばは大好きなのですが、食べるときにちょっとだけ心が苦くなるのです。 


KURIKURI