Vol.67 2008.7この号の当選番号は097と155です。

 


チョコレートの復讐

先月は恐ろしいほどチョコ三昧の日々を送りました。

きっかけは、ほぼ同時期にお土産などであちこちの名店のチョコレートを食べたこと。

どのチョコレートもとてもおいしかったのですが、それ以上に気になったのが素材となるチョコレート自体の個性。

うちで使っているものと同じような個性を持ったものもあったのですが、ほかにもかすかに干草のような香りを持つものや、化学薬品のように鋭角的な香りを持つもの、ゆっくりと舌に余韻を残すものもあれば、ほんの一呼吸で跡形もなく消えてゆくものまで、実に多彩なチョコレートがあったのです。


そんなチョコを食べてしまうと、実験好きの私としてはさまざまなチョコを試さないわけにはいきません。

さまざまなルートを駆使して産地やブレンドの異なるチョコを買い集め、様々なお酒やドライフルーツと組み合わせて生チョコやケーキを作ったりと試作に明け暮れる日々。

そして当然試作には試食がつきもの。

毎日あきれるほどのチョコ尽くし。

このころ下手に怪我なんかしたら茶色い血液が流れ出たにちがいありません。

そんな姿をMIB*に見つかったらエイリアン扱いされてしまうところでした。

チョコの試作も命がけです。(* Men in black:エイリアン監視組織のエージェント)


それにそれだけ食べ続けると、だんだん何がおいしいのかわからなくなってきますし、食べるときの集中力も徐々に落ちてくるもの。

ある日、夕食後に生チョコの試食をした後、お風呂に入ろうとしてズボンを脱ぐとお尻の真ん中にべっとりと茶色くチョコのシミが・・・・・・。

居間の方では私が座っていた座椅子にチョコが染み付いていると大騒ぎ・・・・。

幸い家庭教師がない日だったから良かったようなものの、もし家庭教師に行っていたら、教え子はどう指摘したものかと気になって、授業どころではなかったことでしょう。


そして、そんなこんなの試食の末に生まれたデザートの第一弾は「チョコレートアイス」。フランスのヴァローナ社のエクストラビターをたっぷり使ったアイスクリームです。

ただ、さんざん試食した末に選んだチョコが、有名店ならどこでも使っているようなメジャーなチョコという辺りがちょっと悔しい気がします。

できることならエクアドルあたりのマイナーなチョコで「ほかとは違うぞ!」と主張したかったのですが・・・ほかのチョコは木苺の香りを引き立てるどころか打ち消しあったり負けてしまったり・・

有名店が選択するにはやはりそれだけの理由があるということなのでしょう。


しかしチョコレートのデザートはまだまだほかにもたくさんあります。

ケーキにムースにテリーヌにシャーベット・・・これらのデザートなら他のチョコにもきっと出番があるはずです。


とはいえ・・・チョコレートにも少し飽きた気が・・・。

冷蔵庫には試作品の数々があり、厨房にはン十キロのチョコレートの山が・・・・


昔はチョコの山に囲まれるのが夢だったのですが、現実に囲まれるとなると話は別です。


しかもよくよく考えてみると、私が囲まれたかったのはバレンタインに贈ってもらうチョコレートの話で、チョコレートが食べたかったからというわけではありません。

あまりにチョコがもらえない現実が、チョコの山を夢見させたに過ぎないのです。

そして毎年、バレンタインが過ぎれば玄界灘に向かって「チョコのバカヤロー!」と叫んだもの・・・・

・・・・あ・・もしかしたら今のチョコレート漬けの生活は、バカヤローと言われたチョコからの復讐なのでは?


う〜む、それならば逃げ隠れするわけにはいきません!


当時故もなくバカ者呼ばわりされたチョコの怒りが収まるような、おいしいデザートを作らねばなりますまい!!