Vol.70 2008.10この号の当選番号は071と093です。

 

大きな栗と筋肉と


ふと見上げると、いつのまにやら雲が高く遠くなり、すっかり秋の空模様。


夜に外から聞こえてくる虫の音や、お菓子コーナーに並ぶ新商品。

人によって、さまざまなものから秋の訪れを感じ取っていることでしょう。


ちなみに私が秋を感じるのは筋肉痛。

いやいや、別に秋だからといってスポーツに興じているわけではありません。

筋肉痛になっているのは右手親指の付け根と左手首のあたり。

秋のデザートで大量に使う栗を剥くのに酷使された筋肉、別名「栗む筋」の筋肉痛が私に秋を知らせてくれるのです。


この原稿を書いているのは9月末。

栗のパフェがやっと一週終わったところなのですが、うちの栗アイスは主成分が「栗」なので栗の消費量が半端じゃありません。

栗パフェが始まる前から作りだめしておいたはずの栗アイスはあっという間に底を尽き、毎日毎日栗アイスの仕込みに追われる日々なのです。


そして次のデザートのチョコとマンゴーのクレープを挟んで、その次は栗のムースパフェ。筋肉痛が癒えた頃、再び栗剥き三昧の日々が始まります。


嗚呼、日本に四季があって本当に良かった。


もし、年中栗があったなら私は右手親指の付け根だけが筋肉モリモリのピンポイントマッチョになってしまうことでしょう。


さて、今でこそピンポイントマッチョですらない青瓢箪ですが、今まで何度か書いたようにかつてはマッチョな時期もあったのです。


それは高校時代から大学時代にかけて。

高校入学時には検診で医者に「高校生にしては貧弱な体ですね」と指摘されたほどひ弱な体だったのですが、二年生の頃に一念発起し、ベッドの中に鉄アレイを持ち込むほどトレーニングに明け暮れた結果、三年生の頃には学ランの胸の辺りのボタンがきつくなるほどのマッチョマン。

まるでブルワーカーかアポロエクササイザーの宣伝漫画のような(これを知っている方は昭和三十〜四十年代生まれ?)変身を遂げたのです(色黒にはなりませんでしたが・・・)。


ただ問題はその筋肉の使い道。

別にスポーツをやっていたわけではなく、ただひ弱な体を何とかしたかっただけなので、何とかなってしまえばそれ以上の望みは何もなかったのです。


それでも高校時代は体力測定で自慢するとか、クラスの腕相撲大会なんかでガタイのでかいクラスメイトと張り合う快感がありましたし、大学時代は親子劇場の指導員として子ども達の「人間遊園地」になったりキャンプの時に「人間ダンプカー」として使ったりと何かと役に立ったので、何とかその筋肉は維持できていました。


しかし、結婚して親子劇場を引退すると文明社会の中で筋肉を使う機会はトンとなく、日に日に筋力は衰えていったのです。


娘が生まれたときは、「日々成長するこの子を毎日抱っこしていれば、忍者が成長の早い麻を毎日飛び越えて超人的なジャンプ力を身につけたように、超人的なパワーを身につけられるに違いない」と思ったのですが、困ったことに娘は成長するにしたがって抱っこされなくなってしまい、忍者式筋肉増強プロジェクトは幻に終わってしまいました。


しかし、このまま筋力が衰えてしまっては老後が心配です。


足腰が立たなくなってしまう前に何とかしなければならないのはわかっているのですが、高校生の頃みたいにジャッキーチェンが映画でやっていたトレーニングを片っ端から試すような気力はもうありません。


栗剥きのように仕事の一環ならば、どんなに大変でもやると思うのですが・・・・・


誰か全身の筋肉を使わなければ剥けないような巨大な栗を品種改良で作ってくれないでしょうか
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