Vol.71 2008.11この号の当選番号は054と060と109と121と128です。

ちょこっとチョコを
今年の夏はチョコだった。

このエッセイの愛読者ならばすでにご存知のように、そして興味のある方は店内にあるバックナンバーのVol.67Vol.68を読んでいただくとわかるのですが、とにかく今年の夏はチョコレートの研究に燃えたのです。

世界各地のチョコを使った試作はケーキにアイスにテリーヌにと多岐にわたり、参考までにと取り寄せた商品は数知れず、見る夢までもチョコ三昧。

ふと目を閉じればコゲ茶色の想い出が走馬灯のように脳裏を駆け巡るほど・・・・(コゲ茶色の某昆虫が駆け巡る姿を想像してはいけません)。


しかし季節がかわって秋になると、チョコの存在は急速に薄れていったのです.


なぜかというと、それは栗の季節が始まったから。


多くの栗のデザートが輸入品のマロンペーストで作られているのに対して、当店の栗のデザートは国産の栗で作ります。

殻ごと蒸して香りをつけた栗を「これでもか、これでもかっ」というほど大量に入れて作るのです。

そのために蒸した栗を剥いて裏ごししてからアイスやムースを作るとなると、とてもチョコまでは手が回らなかったという次第。


しかし栗の季節もそろそろ終わります。

この原稿を書いている十月末の時点では、残す栗のデザートは「りんごのムース」にのせる栗のアイスのみ。

着々とアイスを作りだめしているので、もうじき栗剥きの日々とはおさらばなのです。


そうなると俄然懐かしく思い出されるのがチョコ三昧の夏の日々。

汗が褐色に変わるかと思えるほど大量のチョコを食べ、最後にはチョコの部屋に閉じ込められて床が溶け始めるという悪夢を見たというのに、今思い出すのは至福の時間を与えてくれた美味しいチョコの数々。

まるで魔性の女に魅入られた少年のような有様なのですが、それだけチョコレートというものは魅力的なのです。


それに科学的にもチョコは魅力的です。

チョコに含まれるカカオポリフェノールが、動脈硬化やガン予防に効果があるというのは有名な話ですが、それよりさらに魅力的なのがストレスに対する効果。

ポリフェノールがストレスに対する抵抗性を高めるだけではなく、チョコレートの香りは体が感じているストレスそのものを癒す効果があるのです。

何かと頭が痛いことが多い今の世の中にぴったりの食べ物じゃぁありませんか!


そんなわけで、「りんごのムース」の次は「あったかショコラのプレート」に決まったのですが、このあったかショコラは、多分今の「あったかショコラ」とは香りが少し変わります。

また、一緒に添えるチョコのシャーベットは今まで味わったことのない不思議な食感に仕上げる予定です。

そして何より忘れてはならないのが、おまけのように添えてあるはずの生チョコ。

飲み物を単品で頼まれた方にお茶請けとして付けている文字通りの「おまけ」と同じものなのですが、その美味しさはおまけの域を超えています。

レミーマルタンでふくらませた高級ベルギーチョコの薫りと、限りなく滑らかでありながらゆっくりととろけていく口溶け。

今までさまざまなチョコを食べてきましたが、そのどれにも負けない美味しさだと思っています。


そんなチョコいっぱいのデザートを作ることにしたのですが、この際なので前々からリクエストを頂いていた「生チョコのお持ち帰り」も実現しようかと思います。

お友達へのお土産や、自分自身のご褒美に、ちょっとリッチな気分になれるような箱も見つけてきました。あとはいくつかの準備をして、あったかショコラのデザートが始まるあたりには持ち帰りもはじめたいと思っています。


ただ・・・ウチの生チョコは結構手間がかかるので、そんなにたくさんは作れません。売り切れの際はご容赦ください。


あまり日持ちしないものでもありますし、ちょこっとずつ買っていただけたらと思います。