酒の香りと恋の味
シュークリームを食べて酔っ払ったことがありますか?
私はあります。普通に洋菓子店で買ったシュークリームなのですが、クリームに洋酒が入っていて「結構強いなぁ」と思っていたら、見事にその後ハイになってしまったのです。
そんな具合ですから会社員時代はこの時期が苦手でした。
新入社員の頃は忘年会が始まると、ご馳走の山を目前にしながらもあっという間に撃沈し、会費の支払いのたびに理不尽な思いをしたものです。
その後は徐々に無理に勧められることはなくなったのですが、人間関係の都合上、後輩からの勧めはむげに断れません。後輩が注ぎにくるとちょびっとだけ飲むのですが・・
「先輩、それだけじゃ注げませんからもう5ミリ分くらい飲んでくださいよ」
「無茶言うな、もう1ミクロンだって飲めんぞ」
「え〜、せめてあと3ミリくらいは・・・・」
っと、たかがビールをミリやミクロンで交渉する有様です。
このように飲み物としてのお酒はまったくの苦手ですが、お酒はちょびっと使えば素材の香りを大きく膨らませてくれるので、お菓子作りには重宝しています。
例えばチョコレートとお酒の組み合わせ。ただいま売り出し中!の生チョコですが、このチョコを作るにあたってもさまざまなお酒との組み合わせを試しました。
そして、たいていどれも美味しくできるのですが、その個性は実にさまざま。
例えばウィスキーだと香りが実にシャープになります。
ですから、華やかな香りを持つ中南米産のカカオを使ったチョコレートなんかには実によくあうのですが、唯ひとつ欠点があります。
それはどんな高級チョコを使っても、なんとな〜くスナック菓子のような香りが残ること。穀物系のお酒の宿命なのでしょうが、高級バーボンとベルギーチョコを組み合わせでさえ仄かに「しみチョコスナック」の香りがしてしまうのです。
また、柑橘系のコアントローはその扱いが繊細です。
ほんの僅かに加えると実に豊かに香りを膨らませ、特にフランスのヴァローナ社のチョコレートとの相性は抜群なのですが、少しでも入れすぎるとだんだんオレンジの香りが強くなりすぎ、チョコそのものというよりチョコレートケーキのような風味になってしまいます。
そんなわけで、当店ではブランデーを使っているのですが、ブランデーにも様々な個性がありチョコレートとの相性もいろいろです。
例えばカミュには独特の辛味がある香りがするので酸味のある香りのヴァローナと良く合います。
またクルボアジェの華やかな香りは中南米のチョコの香りをよりいっそう鮮やかに引き立てます。
そして様々な試行錯誤の結果選ばれたのが、結局以前から使っているレミーマルタン。
世界各地のチョコを食べ比べ、やっぱり一番美味しいと感じたベルコラーデ社のチョコレート。このチョコレートが持つ苦みばしった深い香りを甘く華やかに膨らませてくれるのは、やっぱりこれしかないのです。
いろいろな組み合わせを食べ比べ、結局落ち着いたのが元の組み合わせ。
様々な出会いの挙句、結局初恋の人と結婚したような感じです。
やっぱり第一印象は大切にという事なのでしょう・・・って何の話だかよくわからなくなってきましたが。
そもそもお酒が飲めないなどといいながら、延々とお酒話の数々。ま
るでモテない男の恋愛話のように説得力がありません。
結局何が言いたかったかというと、当店の生チョコが美味しいんだということ!!!
お持ち帰りにも販売していますが、素材が素材なだけにちょっと高いので、まずはお飲み物を単品で注文していただければ「お茶請け」としてついてきますから、ぜひ食べてみてください。
きっと・・・・初恋の味がします。