父の権威
必要は発明の母と言います。子どもの頃からよく耳にし、何の疑問もなく過ごしてきたのですが、子を持つ父となって十一年、心静かにふと思う。
父親は・・・・誰?
子がある以上母がいるのは当然なのですが、父親だっているはずです。
人類をここまで発展させてきた発明が、ミドリムシや酵母菌のように単為生殖で生まれてきたと考えたくはありません。
そこでネットで調べてみると、かのガリレオは「懐疑」が父であると言ったとか、「夢」や「偶然」が父であるといった諸説が乱立しています。
やはり発明もまた生物一般と同じように、母の特定は簡単でも父の特定は困難なものなのでしょうか?
しかしここで諦めてしまっては父の権威にかかわります。
男一人の我が家で父の権威を守るためにも、ここですっきり父親の正体を確定しておこうじゃありませんか。
数ある諸説の中で私個人の経験としても最もすっきり腑に落ちたのが「失敗」説。会社員時代いくつか特許をとりましたが、その多くは仕事の必要に駆られて四苦八苦している時に生じたミスから発展したもの。
実験計画を立てて緻密に進めたものは、確かに進歩はありますが飛躍はありません。
思いがけない飛躍というものの多くは、きっと失敗から生まれているに違いないと思うのです。
そして最近、失敗から生まれたのは、生チョコにまぶしているココア。
当店ではココアはずっとバンホーテンを使っており、生チョコにもずっとそれを使っていました。
しかしある日、買い物に行ったヨメさんがお店の棚を見るとバンホーテンのココアがすっかり売り切れていたのです。
時はバレンタイン直前。
手作りチョコの需要が増えて一気に在庫がなくなってしまったようです。
お店でもバレンタインを前に急激にチョコの売り上げが増えていたわけですから、当然そのことくらいは予想して買いだめておかなければならなかったこと。
経営者にあるまじき痛恨のミスです。そこでやむを得ず他のメーカーのココアを買って帰ったのですが、それを使ったほうがバンホーテンの時よりも美味しくなっているじゃありませんか!
め手は香りのふくらみ。生チョコに使うチョコレートもココアも私の好みで選んでいたので同系統の香り。それに比べて新しく買ってきたのは香りの系統が違っていたために複雑に香りがふくらんでいたのです。
ココアは生チョコ同士がくっつきにくくするため。そんな先入観にとらわれていたためココアの選定をおろそかにしていたのです。
そんなわけで、その後はまた例によって実験の嵐。世界各地のさまざまなココアを取り寄せて味と風味の食べ比べ。
その結果、最後まで残ったのが果物のように酸味のある香りを持つフランスのバローナ社のココアと、花のようにすっきりとした甘い香りを持つ有機無農薬栽培のエクアドル産カカオで作ったココアと、他に比べ香りは弱いもののどっしりとした苦味を持つ深煎りのブラックココア。
どれも捨てがたく美味しかったので店売りの生チョコは三種類を全て味わえるようにしました。
美味しいだけではなく、見た目もタイルのようにきれいですので、ぜひ一度お試しください。
そして二月末の現在試作中なのがフルーツ生チョコ。
ココアの代わりにフルーツの粉末をまぶしたものなのですが、これもなかなかの美味しさ。今これに合うチョコレートを選定中なのですが、この結果は「チョコクレープ」の時にお披露目する予定です。
乞うご期待!!
と、このように新しい商品も「買い忘れ」と言う失敗から生まれたもの。
人類の発展は母なる必要と、父なる失敗から生まれて来たに違いないと思うのです。
あれっ・・・・?でもよくよく考えてみると、父親の確定は「父の権威」のためだったはず。
なのに父は「失敗」とは・・・・・・。
父の権威は・・・・遠い。