Vol.89 20010.5 この号の当選番号は056と094と148と161と175です。
ゴルゴに負けるな!
あなたは狙撃されたことはありますか?
私も当然その経験はないのですが、先日狙撃もかくやと思えるほどの激痛を経験しました。
それは早朝の仕込中での出来事。物置部屋の奥にあるチョコレートを取ろうと右手を伸ばした時に、足元のミキサーに蹴つまずいていてしまい、倒れそうになったそれを慌てて左手で支えようとしたら・・・・・・いきなり左の背中に息もできないほどの激痛が走ったのです。
「ゴ・・・ゴルゴ13の仕業か・・・」
しかし狭い厨房に頬に斜め線が入ったいかつい眉毛の男の姿はなく・・・・・って、そんなボケをかましていられるほどの余裕もなく、ただただ悶絶していたのですが・・・・。
とはいえそんな激痛はホンの数十秒ほどで終了。
恐る恐る左手を動かしてみても痛みはありません・・・・・と、思ったら、肩から上にあげた瞬間に「オゴグァ!!」
・・・・・左背中のど真ん中にダルビッシュからデッドボールを食らったような激痛が走ったのです。
ならば手を上げなければいいのか、というとそんな簡単な問題ではありません。
動かし方によっては肩より下でもキリでつつかれたような激痛が背中を走るのです。
とはいえ開店まで後一時間少々、お客さんの前でいきなり「オグァ!!」と叫ぶわけにはいきません。
いろいろと試行錯誤を繰り返してみたところ、体温計をはさむように脇をしめてさえいれば激痛はやってこないことがわかりました。
まぁ時には油断して変身後の大魔神のような表情で痛みに耐えなければならないこともありましたが、幸いその日はお客さんから「旗上げゲームを一緒にやりません?」と誘われることも、強盗に「手を上げろ」と言われる事もなかったため(今まで一度も経験ありませんが)、飛び上がるほどの激痛に襲われることもなく無事に過ごせ、何とか回復することができたのです。
それにしても、ぎっくり腰なら聞いたことがありますが、「ぎっくり背中」に襲われるとは思いませんでした。
四十五年も生きていると、気づかぬうちにあちらこちらにガタが来ているようです。
そしてガタが来ていると言えばこのお店。
開店十二年半も経つと、あちこちにガタが来ています。
特に家電製品が酷くて、修理をするたびに少しづつネジを失くしている食器洗浄機なんかかろうじて原型をとどめている有様ですし、先日ついにオーブンの内の一つが修理できる限界を超えたので買い換える羽目になってしまいました。
また、店内の椅子も少々気まずい音がします。
まぁこの椅子自体、外国製のキットを日本人女性用に私が加工して組み立てたものですから、プロが作った既製品と違って多少ゆるい作りになっていたのですが、最近とみにキシミ音が激しくなってきたような気がします。
とはいえ一概に古くなったものがいけないというわけでなく、机なんか最初の頃はいかにも「素人が塗りました」という感じが漂っていたものが、年月を重ねるうちに風格を増し、今では店内の雰囲気をしっくりと落ち着かせるのに一役買っているほどです。
そして私自身も店を始めた当初に比べると、お菓子作りの技術はずいぶんと向上しましたし、珈琲豆の焙煎も入荷した豆の状態を見ながら臨機応変に炒り具合を調節できるようになりました。
新しいものには新しいもののよさがあり、若者には若者特有の輝きがあるものですが、それはそれ自身がもともと持っていたもの。
古くなり、歳を重ねたものには、様々なものを吸収し磨き上げたよさというものがあるのです。
私自身はまだまだ輝くほどに磨かれてはいませんが、冒頭に出てきたゴルゴ13なんか私が幼稚園の時からプロのスナイパーをやっていますが、現在も最新の兵器や情報機器を楽々使いこなすほど超一流の技を進化させ続け、業界内で眩い輝きを放っています。
私も彼を見習って、40年後でも新たな技術を身につけ、輝きを放てるようにがんばっていかねば・・・・・。