Vol.93 20010.9 この号の当選番号は008と052と079と136と140そして特賞が126です。 

古い革袋に入れるのは

先月はお盆明けにお休みをいただき、白川郷・高山へと小旅行に行ってきました。


往復350キロを超える行程を小旅行というのもなんですが、車で350キロ以上も走っていながら一歩も岐阜県から出ない極めてローカルな旅。

堂々と胸を張って小旅行と名乗ってもいいでしょう。


かつては白川郷に行こうと思うと往復だけで一日仕事だったのですが、今は東海北陸自動車道があるので超楽ちん。

インターを降りて五分で合掌村に到着です。お盆明けの平日だったので、あまり人はいないだろうと思ったら、結構観光客でいっぱいです。

しかも欧米系の外人さんの多いこと。きっと私たちがスイスのシャモニーあたりを訪れる感覚なのでしょう(勝手な想像)。


そんな白川郷でまず驚いたのは建物のデカさ。

よく見る遠景の写真では日本昔ばなしに出てくるような小さな家に見えるのですが、実際に見ると正三角形の屋根を載せた四階建ては想像を遥かに超えたサイズです。

中に入ってみてもまた広い。

柱が少々邪魔ですが、中でドッジボールができそうな程の空間が広がっています。

その広さは上に上がって行くに従って狭くなっていき、四階は幅二メートルほどの長い廊下みたいな空間があるだけなんですが、ボウリングくらいなら十分にできそうな奥行きです。


そしてもう一つ驚いたのが、建物の中の涼しさ。

「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉が明らかにデマだとわかるほど外は灼熱状態だったのに、中は囲炉裏に火が入っているにもかかわらず汗が乾く涼しさです。

窓を開け放っても蒸し器の中にいるような我が家と比べ、昔の日本家屋の素晴らしさを感じます(冬に来ると別の感想を持つかもしれませんが)。


そして外に出て村内を散策。

各家の庭の池には鯉が泳ぎ、水路ではラムネが冷やされているだけなくニジマスまでも泳いでいます。

多分これは野生ではなくてどこかのお店の生簀替わり…(もしかすると池の鯉も家庭の食卓に)…。



一通り歩きまわった後はおみやげを求めてお店に。

世界遺産の登録や自動車道の開通にともなって急増した観光客に対応するため、合掌造りの民家の一部はおみやげ店や飲食店や民宿に変わっています。

私たちが入ったおみやげ屋さんも古い民家を改造したところだったのですが、中は京都のおみやげ屋さんのように外人さんにも対応したインターナショナル仕様。

トイレだと思ってドアを開けたらウォークインクローゼットだったような驚きがありました(ちょっと大げさ。しかも分かりにくい)。


そんな白川郷を満喫し、次に向かったのは高山。十五年ぶりくらいにやってきたのですが、ここもまた自動車道を降りて10分少々の便利さ。

家から直行していれば二時間もかからず着いた事になります。

かつて川沿いの41号線を延々四時間近くかけて行ったことを考えると、軽く浦島太郎の気分です。


そして駐車場に車をとめて、古い町並みを散策したのですが、見た目は十五年前とまったく変わりありません。

しかし、あちらこちらのお店の中身が変わっています。

以前に来た時は、飛騨の名物や特産品の店ばかりだったのですが、今は若手作家の作品を置いている店がやたらと多いのです。

古式ゆかしき引き戸の民家に入ると中は個性的な手作り品がいっぱい。

最初のうちは違和感があったのですが、馴染んでしまえば、そこで買うのも立派な旅の思い出。

おいしい味噌や漬物もいいのですが、古びた街並みを目で満喫し、その中でそこでしか買えない手作りの品を買うのもいいものです。


マタイ福音書では「新しい酒を古い革袋に入れる」という言葉は、両方とも台無しにしてしまうの意味で使われています。

確かに多くの場合それは真理なのですが、古いままでは時代の変化についていけませんし、新しく変えてしまえば歴史が失われます。

白川郷や高山のように古い建物を利用して中を新しく変えてしまうのも、歴史の付き合い方としていいものではないでしょうか。


さて、片やKURIKURIも来月で開店十三年。

内装はほとんど変わっていませんが、メニューや食器は徐々に入れ替わっています。

新しいものを取り入れても、もとのKURIKURIを壊さないよう、上手に歴史に付き合っていこうと思いますので、これからもよろしくお願いいたします。


KURIKURI