95号の当選番号は043 065 124 141 196 です

俊足の災い

 
先日九州から両親がやって来ましたので、店をお休みさせて頂いて信州へと行ってまいりました。

目的地は千畳敷カール。

カールと言っても麦わら帽をかぶったおじさんが食べているお菓子ではなく、1980年代に活躍したやたらと足の早い青年でもありません。

およそ二万年前の氷河期に氷河が山肌を削ってできたお椀状の窪地の事で、千畳敷カールは駒ケ岳山頂付近2600mの位置にあります。

そしてそこに行くには、足に自信がある人は別にして、ロープウェイで行くことなるのですが、噂によるとそこは恐怖の行列地獄。

ハイシーズンには麓の駐車場に入るのに1時間、専用のバスに乗るのに1時間、そして本命のロープウェイに乗るのに2〜3時間待ちの行列と、春休みのディズニーランドのごとき行列の嵐だというのです。

そんな訳で少しでも混雑する前に乗ろうと、九州から着いたばかりの両親を車に押し込んで駒ケ根で宿泊。

翌朝八時半に麓の駐車場に着いたのですが、バス乗り場の駐車場は既に満車。

幸いまだ臨時駐車場は空いていたので、民家の庭のようなところに誘導されて駐車することができました。

そしてバスにも30分と待たずに乗れたのですが、このバスがまた楽しかった。

麓から標高1600mのロープウェイ乗り場までは一般車両の入れない専用道路なのですが、この道がまずスゴイ。

日光のいろは坂をバス一台がやっと通れるくらいまで細くして、ぐ〜んと急勾配にしたような道なのです。

しかもところどころ道のすぐ横が目のくらむような崖。

横のおじさんは「俺、高いところ苦手なんだよな」とこれからロープウェイに乗る人間とは思えないようなセリフを呪文のように呟きながら背を丸めていましたが、確かに横の窓からは道路どころかガードレールも見えないために空中を走っているような気分です。

しかしそんなおじさんでさえ、時々窓の外の絶景に歓声を上げるほど素晴らしい景色の数々。

秋の紅葉に滝のような急流。

近所の山では決して見ることのできない迫力のある風景が次々に窓を彩ります。

そしてロープウェイ。20分と待たずに乗ることができたのですが、こちらもまた景色がスゴイ。

バスでは下から見上げていた光景が、こちらでは眼下。

オリンピック級に鍛え上げた鯉であろうと決して滝登りできないような急流が削り上げた斜面に生えるド根性モミジの美しいこと。

そして私のような根性なしでは決して登ることができないような急斜面を毎秒7mで上るロープウェイの動きのなめらかなこと。

半世紀近くも前に、こんな急峻な山奥に機材を運び込んだ方々に惜しみない感謝を捧げましょう。

そんなこんなでたどり着いた千畳敷カールは快晴。

3000m級の山々が連なる南アルプスの向こうには富士山の頭がくっきり見えます。

ふだん空は見上げるものですが、ここ千畳敷では真正面にまで青空が広がっています。

山頂まで登れば360度全て眼下にも空が見える快感を味わえたのでしょうが、根性と体力に相談した結果どちらも「無理」との返事で断念。

チョロっとだけ登ってお茶を濁してしまいました。

そして山から降りて遅めの昼食。

打ちたて蕎麦ののどごしを楽しみ、アルプスの伏流水でいれたコーヒーの香りを満喫。

と、ここまでは良かったのですが、その後の予定を全く立てていない。

なんせ、千畳敷カールまでたどり着くのに少なくとも3時間はかかるだろうと考えていたのがその半分、下りも全く行列がなかったので楽勝。

それこそカール・ルイスのように俊足で千畳敷カールツアーを駆け抜けてしまったので、軽い夕食のつもりだった蕎麦を食べてしまうとする事がないのです。

そんな訳で意味もなく天竜川に行ったり伊那まで足を伸ばしたりした後は高速に乗って土岐インターへ。

道の駅「志野・織部」でお茶を濁してなんとか両親には旅を満喫してもらいました。

行列だらけなのも退屈なのですが、あまりに早過ぎるのも困ったものです。。。


KURIKURI