113号の当選番号は 004 020 129 136 147 です。

箱入り娘にゃ負けません

五月は皐月。

皐月の皐には「神に捧げる稲」の意味があり、田植えの季節という意味合いもあるそうですが、私の個人的感覚で言うと、五月といえば緑。


え?緑なんて年中あるじゃない!という空耳が遠いお空の向こう側から聞こえてきましたが、五月の緑は格別です。

春を彩る満開の桜が散ったあと、地面に落ちた花びらのピンクが茶色く変色するのを隠すように鮮やかな緑が芽生えます。

冬の間枯れ木同然だった銀杏の枝に、まるでおもちゃのように小さく、それでいて立派にあの扇形をした新芽が命の炎をともします。 

確かに落葉樹でも、一年の半分以上は緑に覆われていますが、萌黄色から深い翠へと鮮やかな変貌を遂げるこの時期は、一年で最も美しい季節ではないでしょうか!


そしてその新芽の季節は、お茶にとっても新茶の季節。

冬の間に蓄えた栄養で育つ一番茶の新芽は、太陽光線との戦いに備えてできるカテキンなどの渋み成分が少なく、すっきりとした香りを楽しめます。

また、緑茶にかぎらず紅茶にも新茶はありまして、有名なのはダージリンのファーストフラッシュ。

当店でもクオリティダージリンとして提供していますが、そのすっきりとした香りは紅茶というより緑茶に近く、ヨーロッパでは「シャンペンのようだ」と評されているようです。


また、緑茶の中でも玉露や抹茶に使われる茶葉は、太陽光線を避けるため覆いをかぶせて育てるという貴婦人の如き育て方で、旨み多く渋みの少ない味わいとすっきりとした上品な香りを生み出しているのです。


とは言え、若好みのカトちゃんがいる一方で、熟女好きの綾部がいるように、渋みや苦味がなければお茶じゃないという方も結構多いもの。

どっしりとした渋みを持つアッサムや、キレの良い苦味を持つウバはロイヤルミルクティーに欠かすことができないものです。


だいたい人間というのは欲張りなもので、渋いお茶が好きな人でも渋いお茶ばかりを飲むのではなく、いろんな味のものを欲しがります。

ですから紅茶のような発酵茶には半発酵の烏龍茶からカビているんじゃないかと思うほど発酵の進んだプーアール茶までありますし、発酵しない緑茶でも玉露に番茶に玄米茶と味や香りに変化をつけて飲んでいます。


そしてそんなお茶の中でも、KURIKURIでマイブームなのが「ほうじ茶」。

豆を焙煎して作る珈琲のように、茶葉を炒って(焙じて)作るほうじ茶はその芳ばしさが特徴です。

しかしその香りと引換に旨みに欠けるきらいがあるためお茶としての地位は低く、番茶と同レベルに扱われるのが普通です。


かく言う私もかつてはそんなにほうじ茶好きではなかったのですが、それは『
普通のほうじ茶』しか飲んでいなかったから。

普通のほうじ茶は普通に焙煎されて普通に保存されて普通に淹れて飲んでます。

たしかに普通のお茶ならそれでもいいでしょうが、「焙煎」という工程が加わると、その普通が命取り。

焙煎されたものは「酸化されやすい」という宿命があるのです。


焙煎されたものは焙煎具合で大きく味が変わるだけでなく、その焙煎過程で細かなヒビ割れと二酸化炭素が生じます。

そしてそのヒビから二酸化炭素がゆっくりと抜けていく時に香り成分も同時に抜けていき、二酸化炭素が抜け終わると酸素による酸化が始まります。

珈琲豆ならば二・三週間で二酸化炭素が抜けて、酸化が始まります。

「本日のおすすめ」の豆は前日に焙煎したものですから、まだ二酸化炭素はたっぷり残っていて、味は若干シャープですが香りは鮮烈です。

そして一週間経った豆は捨ててしまいますので、直接比較はできないのですが、一ヶ月以上経った豆で淹れた珈琲は香りが弱いだけでなく、酸化による妙な酸味があとを引くのです。


一方ほうじ茶は珈琲ほど深く焙煎するわけではないのですが、それでも酸化しやすいのは事実。

ちゃんと焙煎をした後にちゃんと包装してちゃんと保存しなければ、すぐに味も香りも落ちてしまうのです。

そんなほうじ茶ばかりを飲んでいたから、ほうじ茶の本当の美味しさを知らずに過ごしてきたわけですが、京都で上質のほうじ茶を飲んで目からうろこがはじけ飛び、以来すっかりほうじ茶ファン。

焙煎という厳しい洗礼を受けたほうじ茶には、蝶よ花よと育てられた玉露や抹茶とは一味も二味も違う奥行きがあるのです。

そんなほうじ茶を使って今回の茶々ムースではほうじ茶ムースに挑戦します。

抹茶のアイスも組み合わせて使う予定ですので、お茶の世界の奥深さをぜひ味わってみてください。



KURIKURI