126号の当選番号は 053 070 134 169 182 です。
デザートはいかが?
朝の厨房は忙しい!たとえば今朝の光景。
厨房に入るとすぐに珈琲豆の焙煎機に火を入れて、温まるまでにバニラアイスの下ごしらえをしてアイスクリーマーにセット。
焙煎機が温まったら豆を投入。オーブンをセットしたら焙煎機が所定の温度に上がるまでにパフェ用のスポンジケーキの下準備。
豆が入った焙煎機が所定の温度まで上がったら火を小さくしてタイマーをセットし、タイマーが鳴るまでにスポンジケーキをオーブンに入れ・・・。
レアチーズムースを作りつつ、豆の焼き上がりに気を配り・・・焼き上がったら次の豆を焼きつつ、カボチャのタルトを・・・。
とまあ、書き連ねてみるとすごい大変そうですが、これらは手順が決まった仕事。
優先順位を決めて、無駄なく作業すれば何とか開店までには終わるものです。
これと対照的なのが休日の厨房。
特に新作デザートの試作をしている時。時間はたっぷりあるのだけど、手順も何も決まっていない!
たとえスポンジケーキひとつを作るにしても、世間にレシピは無数にあります。
そして「こうすれば絶対に美味しい」というのがわかっていても、その美味しさが自分の求める美味しさと同じとは限りません。
あえてレシピから外れたものの方が、デザートのパーツとしては美味しくなる可能性もあるのです。
そんなわけですから、休日の試作は無駄なことばかりしています。
砂糖や小麦粉の種類を変えたり、焼きすぎてみたり、焼かずに蒸したり・・・・。
まぁたいていの場合は王道のレシピが一番美味しいものではあるのですが、時として王道から外れたところに秘宝に続くケモノ道があったりもするのですから侮れません。
あ~だこ~だとゴチャゴチャやっている内に日も暮れて、いつの間にやら新作デザートができあがっているのです。
しかし冷静に考えてみると、この王道から外れた試作だって優先順位を決めて無駄なく作業すれば、もっと有意義な休日をおくれるはずです。
少なくとも数時間は時間が作れるはずですから、本を読むのに費やせば年間数十冊は読書量を増やすことができるでしょう。
とはいえ、それが楽しいのかと言われれば話は別です。
読書もまた楽しみの一つではありますが、そんなことはいつでもどこでもできること。
週に一度の貴重な休みを使い、これまで培ってきた製菓技術を惜しげもなく無駄遣いするのは読書を遥かに上回る楽しみがあるのです。
「無駄」という言葉は、あまりいい印象を与えませんが、古来より無駄は心の豊かさが生み出すもの。
縄文式土器に描かれた文様は、土器本来の性能には全く役に立たないだけでなく、土器制作にかかる時間を激増させる「無駄」以外の何物でもありません。
しかしその無駄は、制作者の心だけでなく、使用者の、そして時を超えて現代人の心までも癒やしてくれるのです。
しかし、いくら「無駄」がいいからと言って、必要なことにまで無駄を持ち込むわけにはいきません。
朝の厨房で無駄を楽しんでいては開店に間に合わず、品数を減らすか睡眠時間を減らすことになってしまうことでしょう。
やらなければならないことは無駄なく最短時間でさっさと終わらせるに限ります。
とは言ってもなかなかそうはいかないのが人間。
私なんかも学生時代、宿題なんかちょっと手をつけては引き出しの整理を始めたりしてなかなか終わらず、「毎日ノート二枚埋めてこい」と言われれば妙に横長の大きな文字で参考書を丸写しにしていたものです。
当然、そのような無駄は楽しくも何でもありませんし、成績も上がりませんから学校生活も毎日が苦行になったものです。
そんなわけで娘の勉強を見る時や家庭教師先では最少の時間で最高の成績をとるため、「いかに無駄なく勉強するか」を最優先して教えています。
学校生活を楽しくしたり、希望する学校に入るために勉強は必要なものですが、その勉強時間を無駄遣いしては楽しくなんかあるはずありません。
必要なことは効率よくさっさと終わらせ、遊ぶなり漫画を読むなりして時間を無駄遣いするのが一番楽しいのではないでしょうか。
また、人によっては「学校でする勉強なんて無駄なもの」という考え方もあるようです。
しかし少なくとも学校に通っている間は必要なものだと思います。
そしてその一方で、学校を出てしまえばそれらの知識のほとんどは実用的には何の役に立たないことも真実。
しかしそれらは、読書の時やドラマやクイズ番組を見る時などに楽しみを加えてくれるものでもあります。
私みたいな理系人間は文系の人とは違った視点で「ガリレオ」を楽しんでますし、ヨーロッパ史をやった人は私と違った視点で「テルマエ・ロマエ」を楽しんだに違いありません。
世の中楽しいことは無駄なことが多いもの。そしてその中でも、デザートなんて無駄以外の何者でもありません。
その無駄をシンプルに楽しむも良し、その裏に隠されたケモノ道を想像して楽しむのもまた良いものです。