132号の当選番号は 059 081 099 104 125 です。

謙虚に生きる

唐突に、と言うか藪から棒とでも言うのか、とにかく急に冬になりました。

今年は10月末頃まで毎日アイスコーヒーの注文があるほど暖かかったのですが、この原稿を書いている11月末では車も凍りつく寒さ。

せっかく買った秋物のセーターは袋に入ったままほったらかし。秋はいったいどこにいたのやら?

そんな寒くなりはじめの時期においしい果物と言えばリンゴ。

さくさくとした食感を生で楽しむのもいいですし、ジャムやワイン煮にしてみたり、バターで炒めてブランデーでフランベにしたりと庶民の朝食からデートディナーのデザートに至るまで様々な調理方法があるのも魅力です。

ところでリンゴと言えばAn apple a day keeps the doctor away.(一日一個のリンゴは医者を遠ざける→リンゴが赤くなると医者が青くなる)ということわざを聞いたことはないでしょうか?

私はこのことわざを高校生の頃に習って以来ずっとリンゴは栄養豊富な果物だと信じていて、受験前には風邪予防のためにと毎朝のように食べていたのですが、このエッセイを書くにあたり調べてみると意外な事実が判明しました。

実はリンゴには特筆するほどの栄養はないのです。

ただ血圧下げる作用があるために、冬場に多い脳卒中を予防する作用があるのでとのこと。

確かに医者は遠ざけてくれそうですが、若者にはあまり縁のないのもまた事実。

毎朝腰に手を当ててリンゴを丸かじりしていた日々は、恥多き青春の記憶に新たな一ページを加えただけに過ぎなかったようです。

来年で生誕半世紀を迎えるのですが、まだまだ知らないことが多いもの。

思い込みを過信せず、調べる謙虚さは大切です。

そしてリンゴつながりで調べて初めて知ったのですが、アダムとイブが食べたのもリンゴではなかったようです。

旧約聖書の時代にメソポタミアにはリンゴは自生しておらず、「知識の木」のラテン語表記の一部がたまたま後に使われるようになったリンゴのスペルと同じだっただけだとか。

この勘違いが後々まで尾を引いて、英語圏では喉仏のことを「アダムズ・アップル」と言うように、いろんな慣用表現にリンゴが使われているようです。

とまあ色々蘊蓄話の尽きないリンゴですが、デザートの素材としても様々な形で使えます。

当店でも白ワインで蒸し焼きにしたリンゴを使ってアップルカントリーケーキやお芋とリンゴのケーキなどを作っていますし、我が家ではこの時期は試作用に買った紅玉リンゴを使って焼きリンゴを作っておやつにするのが毎年恒例の行事。

何せ厨房には様々な種類の砂糖やお酒、ラムレーズンをはじめとしたドライフルーツの数々が豊富にあるので、家族三人三様で思い思いの焼きリンゴを作って楽しむことができるのです。  

さて、そんなリンゴのデザートの中でも王様クラスなのがアップルパイ。

冷たく冷やしたものもおいしいのですが、何よりおいしいのはサクサク熱々の出来たて。

中学生の頃、姉がアップルパイ作りにこり始め、毎年出来たてを食べることができたのですが、素人が作ったものでも出来たてはパイ生地がパリパリサクサクで中が熱々ジューシー。

高校生の頃には一人で半分食べてしまって顰蹙の嵐を浴びるほどの大好物でした。

そんなアップルパイをデザートに活かせないかと頭をひねったのが「アップルパイクレープ」です。

先ほど熱々の焼きたてが美味しいと豪語したものの、当店の厨房設備では熱々の焼きたてを出すことは不可能。

そして作り置きしたパイは温め直しても、焼きたてのサクサクには戻りません。

それに油分の多いアップルパイは食後のデザートには重すぎます。

そこで冷たくしてもおいしいモノをと、クレープと組み合わせたデザートにしたのです。

クレープ生地はパイのサクサク感を邪魔しないようにそば粉を使って歯切れよく。

クレープの中には発酵バターで香りよく焼き上げたリンゴとメープルシロップ入りのカスタードクリーム。

外にはリンゴを厚切りにして白ワインで煮たコンポートとサクサクに焼き上げたパイを散らし。

上にはブラックビスケット入りのアイスクリームを乗せて、二種類のキャラメルソースをかけた後には、シナモンとココアと粉糖を振ってできあがり。

いろんなおいしさが一度に味わえる贅沢なデザートである上に、脳卒中まで予防してしまうという太っ腹なデザートなんです。


 ・・・とここまで書いて気づきましたが、あまり自画自賛してしまうと期待が大きくなりすぎて「美味しい」と感じるハードルを上げてしまいます。

ふと気がつくと他のデザートもプレミアムとかスペシャルとかつけてハードルを上げまくってるし…。

どうもこのお調子者の性格のために期待値を上げ過ぎてしまっている気もします。

等身大のおいしさを味わって頂くためにも、来年は謙虚を心がけていきましょう!!(と、豪語する時点ですでに謙虚でないような…)

KURIKURI