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驚愕の美味しさ

先月号の京都リッツカールトンホテルで受けた「衝撃のサービス」に引き続き、今月はそこのラウンジで味わった「驚愕の美味しさ」のお話です。

ちなみに先月号のお話は「凄い高級ホテルだ!」の一言で済んでしまう程度の内容ですが、興味のある方は店内にバックナンバーがありますのでご参照下さい。

さて、先月号の末尾、ピエール・エルメでのケーキ選びに迷っていたところから話を続けましょう。

と、その前に、なぜエルメのケーキを買って帰るのではなく、リッツカールトンホテル食べることになったのかを話しておきましょう。

何せお持ち帰りなら二・三千円で済むところが、ラウンジで食べるとなると諭吉先生と生き別れになる覚悟が必要です。

天は人の上にも人の下にも人を造ってはいないかもしれませんが、財布の厚みまでは同じに造ってくれていません。一般庶民が家族三人のティータイムに諭吉先生を懸けるにはそれなりの理由があるのです。

それは私の誕生日。

個人的には二十歳を機に歳をとるのをやめたつもりなのですが、融通が利かないことでは定評のある日本の役所はそれを認めず、ついに五十歳の誕生日を迎えてしまったのです。

端数の誕生日ならともかく、生誕半世紀ともなると何かイベントが必要です。

とはいえそんなに贅沢ができる程、我が家の家計に余裕はありません。

ならば一点豪華主義で行こうじゃないかと、清水の舞台からバンジージャンプをする覚悟でリッツカールトンでのティータイムを決めたのです。
そんなわけで主役特権を行使してケーキを最終決定し、意気揚々とラウンジに向かったのですが、何とショップの店員さんがラウンジまで案内してくれるではないですか!

しかもわざわざラウンジのスタッフにお願いして、庭園の見晴らしが良くてなおかつ落ち着いた雰囲気の席をとってくれたのです。

まずは飲み物を・・・・とメニューを開いたのですが、その瞬間、飛び出そうとする目玉を押しとどめるために目蓋に全身の力を込める必要がありました。

珈琲が千五百円+税+サービス料でざっと千八百円!

さすがリッツでカールトンなホテルです(意味不明)。

何とか目玉を押しとどめ、私が選んだのは抹茶オーレ(同額)。

自分で珈琲豆を焙煎している身としては、さすがに珈琲に千八百円は払えなかったのです。

しかしこの抹茶オーレにしたのは大正解。

デザートによく使うので抹茶には結構うるさい方だと思うのですが、この抹茶の香りは私が普段使っている抹茶の一番上等なものよりさらに上。

おそらく二段階くらいは上物です。

そんなお茶の香りに酔いしれながら待っていると、選んだケーキの登場です。

いや、単に選んだケーキではありません。なんと名前付きのバースデープレートが飾り付けられているじゃありませんか!

ここに来る道すがらに名前を訊かれたのは席をとるためではなくこのためだったのかと感心する事しばし。

そして三名の女性スタッフから次々に気の利いたお祝いの言葉をいただくなど、五十になって良かったと心の底から思えるほどのサービスです。

選んだケーキはキャレマンショコラというチョコレートケーキとサティーヌというチーズケーキとミスグラグラのイスパハン。

最後のは何が何だかわかりにくいかもしれませんが、ミスグラグラというのはマカロンでアイスをサンドしたものの事で、イスパハンというのはピエールエルメの代名詞とも言われるローズ・フランボワーズ・ライチの組み合わせです。

そしてどれもまた美味しかった!

特にチョコの香り高いこと。

うちで使ってるチョコだって結構いいチョコなんですが、それではここまでの香りを出すことができません。

もしかしたらホテルの地下に秘密のチョコレート工場があって、作りたてのチョコを出しているのではないか思うほど香り高いのです。

そしてチーズケーキも美味しかったのですが、何より凄かったのがイスパハン!

口に含むまでは香水のような薔薇の香りに包まれているのですが、これが口に入った瞬間に鮮烈な木苺の酸味と絡み合って、吸い込んだ息をもう一度吸い込み直したくなるほどの美味しさなのです。

ライチの方はよく分からなかったのですが、これもまた味の中で生かされているのでしょう。

そして驚愕の瞬間はその後にやってきました。

あらかた食べ終わった後、お皿についたチョコをフォークでさらって、これもまたお皿についていた溶けたアイスにちょっとつけて食べてみたところ・・・チョコと香りと薔薇の香り、チョコの甘苦みが木苺の酸味と溶け合って、心臓が止まりそうなほどの美味しさだったのです。

今まで色々美味しいモノを食べてきましたが、よもや命の危機を感じるほど美味しいモノがあるとは・・・。 

KURIKURI