147号の当選番号は 052 066 112 131 185 です。
偶然か必然か
この原稿を書いている時点で受験シーズンは終盤。
やるべき事を終えた教え子達に最後のアドバイスとして伝えているのが「空欄を作らない」ことです。
特にマークシートや数字を入れるだけの解答ならば、絶対に埋めるように言っています。
過去の努力から得られた解答であれ、転がした鉛筆からの啓示であれ、正解ならば得られる得点に差はありません。
運もまた才能の一つ。空欄は才能を放棄しているとも言えるのです。
さて、話は変わりますが「セミドライフルーツ」をご存じでしょうか?
よもや「蝉の干物が入った果物」と思う人はいないでしょうが、この半生ドライフルーツを食べたことがある人は、そんなに多くないでしょう。
セミドライフルーツはレーズンなどのドライフルーツに比べると水分が多く、生の食感や味わいをしっかりと残しており、ヨーロッパでは割とメジャーな加工食品です。
しかしバターをテーブルの上で常温保存するようなヨーロッパに比べて、サラミにさえカビが生えるほど高温多湿な日本では、セミドライフルーツは保存食としての信頼性が今ひとつ。
結果としてあまり流通していないのです。
そして去年たまたま訪れた仕入れ先で、入荷したばかりのセミドライアプリコットを紹介されたのです。
そこで、試しにガトーショコラに加えてみたらこれがまた驚くほど美味しい!
セミドライアプリコットの持つ酸味や香りが、ガトーショコラで使っているベルギーチョコと相性抜群な上に、柔らかくクニッとした食感がスルスルとほどけるガトーショコラに丁度いいアクセントを与えてくれたのです。
そこでさっそく「午後のお茶セット」をリニューアルしてメニューに組み込んだのですが、こんなに相性のいい組み合わせが、何で今までメジャーになっていないのか不思議です。
たぶんそれはチョコとの組み合わせにあるのでしょう。
私が使っているアプリコットはフランス製なのですが、フランスのチョコレートはフルーティで軽やかな香りとやや酸味がかった味わいのものが多く、アプリコットとは個性が被ってしまいます。
一方ベルギーチョコはどっしりとした重厚な香りと苦み走った味わいが多い一方で、アプリコットはあまり栽培されておらず、両者が出会う機会があまりなかったのではないでしょうか。
そんな両者が遠い異国の地で出会い、生まれたのが当店のアプリコットショコラ。
奇跡の出会いから生まれた美味しいケーキです。
そんな美味しいケーキなので以前から持ち帰りの要望は多々あったのですが、他のケーキと同じサイズにすると味のバランス上、高価なセミドライアプリコットを沢山入れる必要があるので割高になってしまいます。
そのため小さなホールケーキの形で販売することにしたのですが、一種類だけではなんだか寂しい・・・。
そこでもう一種類、KURIKURIに因んで栗が入ったマロンショコラを作ることにしたのですが、これが意外に大変でした。
まず栗は国産の和栗にすることにしたのですが、これがまた高い!
一粒百円以上が普通で、五百円もするものさえある始末です。
たまに「これならいけるか」という値段の和栗もあったのですが、それは大抵和種の栗を海外で育てて生産したもの。
色んな事件もあったので安全性も気になりますし、日本の気候に合わせて品種改良したものを外国で育てたものがベストの味わいとも思えません。
そこでまぁ値段は売値の方で調節することにして、国内の栗農家の方が作った渋皮煮を購入したのですが、ここでもまた問題が・・・。
和栗の個性はチョコの個性と方向性が被っている上に力強さで負けてしまうのです。
高価な栗を「もうやめてっ!」と悲鳴を上げるほど大量に入れて作ったにも関わらず、栗の風味はチョコの風味の中に隠れてしまい、残ったのは歯ごたえくらいのもの。
コストパフォーマンス悪すぎです。
これでは高価な国産栗を使う意味はありません。
と諦めかけていたその時、思い出したのがバレンタインフェアで食べた紅茶チョコ。
紅茶の風味はチョコより遥かに弱いにもかかわらず、上手に使ったメーカーのものは紅茶の香りがチョコの香りの中に浮かび上がっていたのです。
これを使えば栗の風味も引き出せるはずっ!
さっそく栗を紅茶につけ込んで試作すると、前より遥かに美味しくなっています。
今日の段階では、それにコニャックをちょっと加えた所で、栗の風味がさらに引き立ってきています。
完成形まであとわずか。三月中に発売を始めることができるでしょう。
ちょっとした偶然から生まれたアプリコットショコラと、様々な試行錯誤の末に生まれる予定のマロンショコラ。
個人的には手間暇かけたマロンの方が美味しいと信じたい所ではありますが、てきとうに飛ばした下駄の方が最新機器を駆使した天気予報よりも当たる事もありますから、奇跡の出会いの方が美味しいかもしれません。
どちらの方が美味しいか?お財布の機嫌が麗しい時にでも食べ比べてみてはいかがでしょうか?