150号の当選番号は 007 032 059 116 155 です。

Who said DAJARE?

所変われば品変わると言いますが、人の行動も場所によって異なるようで、欧米ではのこぎりを押して切るそうです。

日本人的には引く方が圧倒的に楽な気がしますし、物理的に考えても押して切るためには刃を分厚くしないと切る時に曲がってしまうので材料の鉄も沢山使いますし、そのぶん力も必要です。

ただ、引くよりも押す方に力をかけるということは、背中側の筋肉への負担が少ないということであり、これが欧米人に肩こりが少ない要因なのかもしれません。

ちなみに私は果物などの皮を剥く時、刃を外側にむけて押すようにして剥いていきます。

もしかするとご先祖様に欧米の血が・・・と思いきや、欧米の方も果物の皮を剥く時は手前に引くそうですから、ご先祖様に地球外生命体がいるのかもしれません。

そんな話はさておき、今頭を悩ませているのが「季節外れの栗茶パフェ」。

先月号のエッセイで「栗を使った新しい定番デザートを検討しています」と書いていながら、締め切りがないために試作の無限ループに入り込んでしまったのです。

そこで、締め切りのある期間限定デザートに栗デザートを押し込んでみたのですが、それでもなかなか決めることができません。

何と言っても、ショコラマロンの試作のために買った栗アイテムが多すぎるのです。

チョコとの組み合わせは相当極めましたから、チョコと栗との組み合わせも魅力的ですが、そこにお茶をどう絡めるか?

お茶は焙じ茶を使う予定ですが、その焙じ茶の焙煎具合は深めにして渋みを活かすか、浅めにして香りを立たせるか・・・いっそ抹茶に逃げるか・・・。

ま、悩みは尽きないところですが、耳から煙を吹き出すほど考えようと、遠い目をして現実逃避しようと、あと十日もたてば締め切り。

きっと美味しいデザートが仕上がっていることでしょう。

そう、悩んだといえば「バラと木イチゴのクレープ」も相当悩みました。

今までデザートは数知れず作ってきましたが、バラを前面に押し出したデザートはこれが初。

きっかけは去年の夏に食べたピエール・エルメの「イスパハン」というバラと木イチゴとライチを組み合わせたケーキですが、初挑戦の相手が洋菓子界の最高峰とは、生まれて初めて登る山がエベレストみたいなもの。

どこから手をつけたものかも分かりません。

とりあえず使う薔薇でも決めようかと、色々取り寄せてみたところ、とりわけ気品のある香りだったのが「ダマスク・ローズ」。

ダマスクなんて名前を聞いても、普通の人は「バラの名前がダマスクとか、おめぇ、オラを騙すく(気)か?」なんて駄洒落くらいしか思いつかないと思いますが、こんな名前をしていても薔薇の世界じゃ女王と称される高級品種。

しかも今回購入したのは、その中でも最高峰として知られるブルガリア産です。

と、ここまで読んでこのクレープを食べた方は「え?そんなに薔薇の香りがしなかったけど?」と思ったかもしれません。

参考にしたイスパハンなんか食べる前から香水のような香りが漂っていましたが、私が作ったデザートは口に入れてからふんわりと香りが鼻に抜ける程度。

「材料ケチったんじゃないの」と言われても仕方の無いところではあります。

しかしピエール・エルメはウチの家族三人がケーキとお茶だけで福沢先生消失イリュージョンを見せてくれるほどの高級店。

当店のような三人でランチに飲み物とケーキまでつけても、樋口先生を差し出せば野口先生が返ってくる一般店とは使える材料費が違うのです。

いやいや、材料費の問題ではありません。

ピエール・エルメに限らず欧米人はストレートな強い香りを好みます。

例えばフランスのフォションなどのフレーバーティは国産のそれに比べて香りが鮮烈です。

オレンジティーならオレンジの香りがストレートに鼻を打ってきます。

そのため茶葉も香りが弱いものを選んでいるようです。それに対し、日本のフレーバーティーは香りが優しいものが主流です。

そのかわり紅茶そのものの香りはしっかりしていて、口に含むとフレーバーと紅茶が溶け合った香りが鼻に抜けていくのです。

これはたぶん、香りに対する国民性の違いです。

欧米人は鼻から吸い込む香りを重視し、日本人は口から鼻に出す香りを重視する。

のこぎりとは逆パターンで香りを味わう日本人に合わせ、あえて香りを弱くしたのです。

とまぁ延々と講釈を続けてきましたが、単なる言い訳のように見えなくもありません。

もし私が若者ならば「いい若けえモンが言い訳するんじゃねえ」と叱られるところですが、思いついた親父ギャグを口にせずにはいられないほど十分にオッサンですから問題ないでしょう。

しかし、こんなくだらない駄洒落を読まされる方はたまったものじゃありません。

駄洒落を言ったのは誰じゃ」と言われる前に筆を置くことにしましょう。

KURIKURI