154号の当選番号は 123 153 172 191 280 です。

じっちゃん達の名にかけて

万葉の昔、女性に名前を尋ねることは求婚するのと同じことだったといいます。

名前には全人格を縛る霊力があると信じられており、名前を教えるには相手にすべてをゆだねる覚悟が必要だったようです。


同姓同名が多い欧米と異なり、多種多様な姓名を持つ日本人は、「名は体を表す」と言うように今でも名前が人間形成に影響すると考えている人がたくさんいます。


たとえば、最近ネットで話題になった「堤盛良」さん。

決壊した鬼怒川に仮堤防を迅速に作り上げた国交省の現地対策本部長さんだったのですが、「まさに堤防を盛るために生まれてきた男」としてツイッターなどで盛んに呟かれていたのは、名前が職業に影響したと考えた人が多かったからでしょう。


他にも名前と職業が一致する人として知られているのが「星出」さん。

「星を出る」とは宇宙飛行士にならずして何になるというような名前ですが、堤さんと違って少し時代がずれるだけで存在しなかった職業ですから、先祖代々この方のために受け継がれてきた名前なのかもしれません。


しかしあたりを見回せば、名が体を表している人ばかりではありません。


昔キャンプの指導員をやっていた時、静香ちゃんという子がいたのですが、この子は全然静かじゃなかった。

もともと一分と黙っていられない賑やかな子だったのですが、ある時誤ってこの子のお弁当を踏んづけてしまい、それ以来どこで会っても第一声が「お弁当!」の叫び声。

休日に本屋で立ち読みしている時に、遠くの方から「お弁当!」の叫びが聞こえた時には、幻聴に取り憑かれたかと思ったほどです。


しかしよくよく考えてみれば、この静香ちゃんの賑やかさも名前によるものなのかもしれません。

小さい時から「静香ちゃんなんだから静かにしてね」と言われ続け、その反動がきたとも考えられます。


そしてキャンプに連れて行った子でもう一人思い出したのが、「椎奈」ちゃん。苗字はごく普通だったのですが、とてもおとなしかったのでみんなから「おとなしいなちゃん」と呼ばれていたのです。

今は結婚されているお年頃ですが、もし苗字が「乙名」さんという人と結婚していれば、この上なく立派に名が体を表していることになるでしょう。

とは言え、もう二十年以上も前のことですから、今は全然おとなしくなくなっているかもしれません。「田熊」さんと結婚して逞しい奥さんになっていればおもしろいのですが・・・。


ちなみに私の名前は「栗山」です。

栗林のある山を所有する資産家の息子ではなく、ただのサラリーマンの息子ですから名が体を表す事など一生あるまいと思っていたのですが、人生何が起こるかわからないもの。

最近では夢でうなされるほど、栗の山に縁のある生活を送っています。


その栗の山とはデザートの材料に使う栗のこと。

でっかい鍋で一度に蒸せる量が三・四キロくらいなのですが、普段スーパーなどで売っている一袋が500グラムくらいですから、その六~八倍を想像してみて下さい。けっこう山になっていると思いませんか?これを週に二・三回も剥いているのです。


そんな栗山ライフを送ることになってしまったのも「栗まつり」を始めてしまったから。

あまり深く考えることもなく「栗は人気があるし、店の名前がKURIKURIだから」と決めてしまったのですが、よくよく考えてみるとKURIKURIパフェで既に栗アイスが定番化しているのですから、既に例年よりも使う栗の量は増えているのです。

それに加えての「栗まつり」ですから、うなされるほど栗の山と格闘する羽目にもなろうというもの。

意識はしていなかったのですが、いつの間にか私も名前の霊力に縛られていたようです。


しかし、ざっと見渡す限り、わが栗山一族には私以外に栗の山に縁がある人物は見当たりません。

もしかすると、「星出」さんのように先祖代々の集大成がこの職業に込められているということなのでしょうか。


今までは蒸し上がった栗の山をみるたびに「美味しいデザートのためには仕方ない」と深いため息をついていましたが、そのような態度で栗の山に接しては、脈々と栗山の名を受け継いできたご先祖様達に申し訳がたちません。

金田一少年はじっちゃんの名にかけるだけですみましたが、この栗剥きにはその数十倍、いや数百倍がかかっているのです。

栗の山に一礼し、謹んで剥かせて頂きましょう。





KURIKURI