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背水のデザート
洋服を選ぶとき、女性の多くはその服を着るシチュエーションをイメージし、その服を含めたトータルコーディネートまで考えてから買うと聞いたことがあります。
一方男性は、目にした服のデザインが気に入ったかどうかが最大の関心ごとであり、その服を着てどうするかまでは考えずに買うことが多いそうです。
私もまた世間一般の男性同様使い道など考えずに服を買うタイプの人間ですが、学生時代に一度、明確に目的を決めて服を買ったことがあります。
その目的とは「初デート」。
意中の彼女と海辺での初デートを想定し、有り金はたいてネイビーブルーのジャケットを買ったのです。
まだ告白こそしてはいなかったものの、彼女のアプローチから始まった関係ですから、私が一歩踏み出せば恋人関係になるのは間違いなかったのです。
しかし人生に確実なことなどありません。
思い起こせば幼稚園の運動会、トップを走ってゴールテープを目前にしながらつい後ろを振り返ってしまって転倒し、びりになってしまったこともあるのです。
そう、その彼女とは告白する目前で破局を迎えてしまったのです。破局の原因は様々なことが絡み合って起こったのですが、まず最初の失敗は「有り金をはたいてしまったこと」でした。
初デートの資金もなく、そしてそのジャケットに合わせる服も持ち合わせていなかったこともあって告白を先延ばしにしている間に、いろんなトラブルが起こってしまったのです。
もし、あの時初デートの服のことなど考えずに告白していれば、私の青春はもう少し華やかなものとなっていたことでしょう。
そのことがトラウマになったのかどうかはわかりませんが、社会に出てからはまず一歩踏み出してから考えることが多くなりました。
会社員時代は上司から「できるか」と問われればとりあえず「できる」と答えてからどうすればできるかを考えてましたし、この店を始めるときも辞表を出してから喫茶店経営の勉強を始めたのです。
そして今、デザートを決めるときも同じような手順を踏んでいます。
月末が近づいて来月のデザートを決める段になって考えるのはまずネーミング。
同じデザートを作ることはありませんが、名前は評判がよかったデザートのを使いまわすことが結構あります。
しかし、同じ名前を何度も使っていると飽きられそうな気がします。
そこで、「スペシャル」を「プレミアム」にしてみよう、とか「オレンジ」よりも「Wオレンジ」の方がかっこいいなとか、姑息な手を使いつつなんとか引きの強そうな名前を決めるのです。
しかし、この段階ではまだどんなデザートになるか決まっていません。
ただ、HPなどで告知する必要があるのでとりあえず名前だけ決めるのです。
しかし名前を公表した以上、もう変更はできません。
そして月末になると一日に発行するKURIKURI通信のデザート欄のためにざっくりとした内容を考えます。
「Wオレンジって書いたけど、オレンジを二種類入れるのか、それとも二倍量入れるのか」というあたりから始まって「とりあえず国産オレンジと見た目で分かりやすい真っ赤なブラッドオレンジを使うか」という具合に決めていきます。
これでどんなデザートになるか告知してしまうわけですが、ここから先は試作しないとわかりません。
そして試作を始めるのは新作が始まる4・5日前あたりから。
新作が始まるのが水曜日からですから、だいたい金曜日の夜あたりから始めます。
KURIKURI通信に書いてあることをヒントに、ざっくりと全体像を決め、パーツをそれぞれ作っていきます。
順調にいけば日曜日には微調整まで終わり、月曜日に写真撮りをしてPOPを作ったりHPを書き換えれば、火曜日の定休日はのんびり過ごせます。
しかし、そんなに順調にいくことは、めったにありません。
今まで一番大変だったのはバレンタインショコラパフェに使ったチョコギモーブ。
最初の試作はうまくいき、写真撮りも終えたのですが、その後何回作ってもおいしく作れなかったのです。
火曜日の夕方になってもまだうまくいかず、写真を撮りなおすしかない…と思ったあたりでやっとうまくいくようになって、ギリギリ間に合ったのです。
これがもし順番が逆だったら…
美味しいチョコギモーブが作れるようになってから、デザートに使おうとしたのなら…きっと失敗を繰り返してる段階で諦めて、チョコギモーブ入りのパフェを作ることはなかったことでしょう。
まずは簡単に引き返せないところまで踏み出し、それからどうするかを考える。
いろいろ大変なことはありますが、先のことを考えて踏み出せないよりもずっと得るものは多いのではないかと思っています。
ただ…横断歩道の前で実行することだけは、お勧めできませんが。。。。。。