169号の当選番号は 031 032 156 161 188 です。
ジャンプよさらば
新年、あけましておめでとうございます。
今年も、心の底からほっこりとできるお店を目指して頑張っていきますので、よろしくお願い致します。
今年もまた例年の挨拶の使い回し、いつもと変わらぬお正月です。
しかし世間の方は私の気づかぬうちに色々変化してきているようです。
例えば紅白歌合戦。
久しぶりに見てみると、ずいぶん華やかになっています。
最新技術を駆使した舞台装置もさることながら、歌手の方々も見目麗しきことこの上なし。
昔は歌が上手い歌手ほど見た目が残念だったような記憶があるのですが、今や歌が上手い上に見た目も美しい方の多いこと。
芸能界への門戸が広く開かれた結果、競争が激しくなって歌が上手いや見た目が美しいだけでは生き残れなくなってしまっているのでしょう。
競争が激しい世界では優れたものしか生き残れないのは、動物界と同じこと。サバンナや極地で生きる動物たちは生存に最適な体に進化したものしか生き残っていません。
しかし一方で食物が豊かな環境では、進化の方向性は多様です。
ナマケモノのように「動かない」方向に進化した動物にあるまじき生き物もいれば、目が離れていた方がモテるからとせっせと目を離した結果、左右にマッチ棒をつきだしたような目に進化して狭い所に潜り込めなくなったシュモクバエのような生き物もいるのです。
そしてこれはケーキの世界でも同じこと。
パティシエ世界一を目指すような激しい競争の中で生き残るには、味覚だけでなく外見的な美しさを感じ取れる感性とそれを作り上げる技術が求められ、その能力を極限まで進化させる必要があるのです。
一方、私がいるような日常の生活空間では、進化の方向は多様です。
例えばシュークリーム。
本格派のざっくりとした固い皮のものもあれば、それがパイ生地になったりメロンパンのようなビスケット生地を乗せたものになったり、シュワシュワの柔らかい皮もあればモチモチになったものもあります。中身もカスタードや生クリームだけでなく、チョコに抹茶に小豆にアイスとあらゆるものが入っています。
そして、最近では食感だけでなく形状も真四角になったりキノコ状になったりアイスのコーンのような円錐形になったりと、進化の方向は多様にしてとどまる所を知りません。
さて、そんな中で私が進化を選んだのは「チーズケーキ」。
お持ち帰り用に三種類を作ることにしたのですが、これを書いている時点で完成しているのは一種類のみ。
想像以上に進化は難儀な仕事です。
いま販売中の「織部」は抹茶のチーズケーキ。
抹茶が持つ植物性の旨味とクリームチーズが持つ動物性の旨味は、同時に味わうと何倍にも感じられるという特性があるので、抹茶チーズケーキは鉄板の組み合わせ。
新しいケーキなんか簡単に作れるだろうと思っていたのです。
しかし、それは甘かった…。
参考にしたのは有名なお茶屋さんの抹茶チーズケーキ。
チーズケーキに練り込まれた抹茶は、そんじょそこらの製菓用抹茶とは段違いの味と香りを持つ一級品。
もし私が同じ方向で、これ以上のものを作ろうとしたらコストがとても見合いません。
そこで別方向に進化させることにしました。
それは、練り込まないこと。
例えばチョコと珈琲は最強の組み合わせ。美味しいチョコを食べながら飲む珈琲は至福のひとときを生み出します。
しかし、だからといってチョコを珈琲に溶かして飲めばその至福が得られるかといえばそうではありません。
そんなわけで、二層にしたり中に抹茶ソースを仕込んだりと試行錯誤の末、たどり着いたのが「濃茶のソース」。
極限まで濃く作っても旨味を失わない濃茶をタラリとかけて食べるケーキにしたのです。
そして、抹茶に合わせるためにこだわったのがクリームチーズ。
抹茶の美味しさを最大限に引き出すには「ミルキー」な香りが必要です。
クリームチーズにミルクの香りなんかあるものかと思うかも知れませんが、バターにだってカルピスバターのようにミルク香るものだってあるのです。
そして様々なクリームチーズを取り寄せて、選び抜いて作ったのが「織部」なのです。
しかもこの織部、現在販売しているのはバージョンアップ版。
初代も十分ミルキーだったですが、販売開始後になってその数ヶ月前に注文していたクリームチーズが届き、そのチーズがよりミルキーだったのです。
そこで急遽そのクリームチーズに合わせて製法を変え、濃茶の配合も変えて新バージョンの発売と相成ったのです。
厳選した素材で十分美味しいケーキを作ったはずなのに、より美味しい素材が届いたために作り直す。
去年決別したはずの「ジャンプ」*の世界に再突入した気配です。
年始の挨拶だけでなく、店主の性格もまた相変わらずの模様。
進歩のないお店ですが、本年も変わらぬご愛顧をお願いいたします。
お楽しみに!