187号の当選番号は 006 056 102 105 131  です。

足りない力


先日見たテレビで面白い企画をやっていました。
十万円以上もする一番高い炊飯器で1キロ300円程のお米を炊くのと、3000円くらいの安い炊飯器で1キロ9000円以上もするお米を炊くのでは、どちらが美味しくなるのかを検証するというのです。
そして実際に炊いて食べ比べてみた結果、スタジオ内全員一致で「安い炊飯器で高いお米」の方が美味しいと評価したのです。
確かにこのような「炊くだけ」の勝負では素材の善し悪しが決め手になるもの。
私だって一ヶ月以上前に焙煎した古い豆で珈琲を淹れろと言われれば、新鮮な豆を使って980円のコーヒーメーカーで淹れた珈琲に惨敗する自信があります。
しかしこれが料理ならどうなるか。
一流の料理人が安いお米を使って作ったチャーハンと、家庭科で目玉焼きを作ったのが唯一の調理経験である中学生が最高級のお米を使って作ったチャーハンなら、他の食材や調理器具を同一条件にしたとしても料理人が作ったチャーハンの方が美味しいに違いありません。いや、それだけではないでしょう。
一流の料理人が一人で高いお米と安いお米でチャーハンを作り分けたとしても、きっと安いお米で作った方が美味しいと思うのです。
「ご飯」として美味しくなるように品種改良を重ねて作ったお米なら、やっぱりご飯として食べるのが一番美味しいに決まっていますから。
では、パフェならばどうでしょう。
もし、それを口に含めば吐息だけで女性を口説けそうな程甘く芳醇なメロンを使ってパフェを作ったら、とてつもなく美味しいパフェになるのでしょうか?
私はそうならないと思うのです。
確かに、きっと美味しいパフェは作れることでしょう。
しかし、アイスクリームに冷やされた舌は、本来の甘みを感じることができるでしょうか?
ともに添えられたフルーツやソースの香りはメロンが持つ至福の香りを妨げることはないでしょうか?
完成された味わいを持つ最上級のメロンであるならば、やはりメロンとしてそのまま食べるのが一番美味しいと思うのです。
ちなみに当店のパフェは、そこまで高級な素材は使っていません。
一番高かったのは「お濃茶アイスクリーム」で使った100グラム8000円程の抹茶ですが、それでさえ最高級の抹茶に比べれば中級品のレベルに過ぎません。
パフェというものは単体の集合体ではなく、全体として一つの作品なのですから、あまり突出したパーツを使ってしまうとバランスが崩れてしまって最後まで美味しく食べられないと思うのです。
単品で完成した食材ではなく、ちょっと酸っぱかったり香りに癖があったりという「個性」を持った食材をバランス良く組み立てていくことで、パフェは最高級フルーツに負けない美味しさを生み出せるのです。
ちなみに当店のパフェはどのようにして作られていくのか?
まず最初に決まるのが「名前」です。
翌月のメニューを決める時に、季節に合わせてなんとなく美味しそうな雰囲気のパフェの名前をつけていくのですが、この段階では全く具体的なものは決まっていません。
そしてその後はすっかり忘れた状態で時が流れます。
次に思い出すのは、新作が始まる4・5日前。名前をGoogleに打ち込んで画像検索し、イメージを膨らませる事から始めます。
とは言え私には画像イメージ力というものが絶望的に存在していないので、イメージするのは味や香りの組み合わせのみ。
それを何とか幼稚園児の落書きの如きイメージ図にしてデザイン担当のヨメさんに見せ、飾りや色のバランスの注文を聞き、それにあわせて全体をバランス良く組み立てていくのです。
例えば、夏のフルーツパフェでは最初に決めたのは飛行機雲のようにすっと伸びる香りを持つメロンとうろこ雲のように広がりを持つマンゴーとの組み合わせ。
そして、これでは色味が地味だという嫁さんのアドバイスに従って真っ赤なスモモとピンクの桃をあわせることにしました。
メロンとマンゴーでは酸味がたりないので、マンゴージェラートにパッションフルーツを少し加え、上と下では香りの系統が全く異なるのでアールグレーのシフォンケーキとラム酒で香りをつけたパンナコッタを緩衝ゾーンに使い、季節の始まりでまだ香りの弱い桃は白ワインでコンポートして香りを補い、酸味の強いスモモゼリーの上にはホワイトチョコでコクを加えたバニラアイスを配置して舌への刺激を抑え、上から下まで味と香りの変化を楽しめる様に仕上げました。
そして最後はヨメさんの仕事。
あらかじめ注文に応じて何種類か作っておいた飾りやソースを取捨選択し、インスタ映えする美味しそうな外見に仕上げていくのです。
しかしこの時、パフェの色使いや飾りの仕上がりがヨメさんの想像と異なることがしばしば。
そんなときは昔ボツになった飾りなどを使って無理やり仕上げるのですが、これが案外評判良かったりするのです。
もし私かヨメさんに一から十までパフェを作る能力があったなら、最初にイメージしたとおりに作るだけで余計な手間などかからぬはずではありますが、それ以上のものはできないハズ。
足りないモノの組み合わせは時に完成品をも凌駕するのです。
まぁ、いつもとは限りませんが。。。
ともあれ、美味しいパフェはいかがでしょうか?



KURIKURI