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紙に願いを


怒濤の八月がやっと終わりました。
まぁこの原稿を書いている時点ではまだ八月は終わっていないのですが、市内の小中学校の夏休みは終わったので、終わったと言い切っても良いでしょう。
とにかく今年のパフェ祭りは大変だったのです。
きっかけは七月に「斧屋」さんというパフェ評論家の方がいらっしゃったこと。
東海版のぴあで紹介された「紅茶のパフェ」に興味を持ち、東海エリアの取材で当店に来てくださったのです。
まだ本は出来上がっていないようですが うちのパフェのことをツイッターや自身のラジオトークなどで過分に褒めて頂いているのです。
全国のパフェを食べ歩いている方から褒められたとあっては、下手なパフェは作れません。
いや、いつもちゃんと作ってはいるのですが、ツイッターやラジオトークで情報を得て遠くから来てくださったお客様に「マジ普通ww」と思われてしまったら、斧屋さんの顔に泥を塗ることになってしまうではないですか。
そんなわけで今年のパフェ祭りは例年以上に細部までこだわり抜いたパフェを作らざるを得なくなってしまったのです。
例えば飾りに使った焼きメレンゲ。
「オレンジレモンパフェ」の時には綿菓子のように儚く溶ける食感にしましたが、「チョコとベリーの夏パフェ」ではウェハースのようなざっくり感のあるチョコメレンゲと、パリッと割れた後口の中でシュンと縮む食感に仕上げた木苺メレンゲと、誰も気づかないようなところにまで差をつけているのです。
そしてアイスやソースなどもいちいち全部一工夫。
そんなパフェを毎週新作で出し続けたのですから、体も脳みそも休むヒマなんかあったもんじゃありません。
特に土日なんかは、店が忙しい上に新作パフェの締め切りが迫る極限状態。
釜爺の手とコナン君の頭脳が欲しい程でしたが、持っているのは常にどこかに故障を抱えた二本の腕と昔のPC98パソコンようにシングルタスクしかこなせないポンコツ頭脳だけ。
おかげで戦場の如く忙しいランチタイムに皿は割るはオーダーは間違えるはと、まるでコントのように混乱に拍車をかけまくっていたのです。
そんな具合ですから、休日といえどもほとんど外に出ることなく仕込みや試作で休むヒマなどなし。 めっちゃ大変な日々だったのですが、良いことだってありました。
その一つが「マンハッタン」、我が青春の菓子パンです。
六月号に「思い出のマンハッタン」というタイトルでここのエッセイに書いた思い出のパンなのですが、これを九州に行ったお客さんがわざわざ買ってきてくれたのです♪ 
しかも賞味期限が迫っているからと、帰ってきたその足で店まで持って来てくださったのです。
既に外は暗くなっている時間でしたが、マンハッタンを差し出したお客さんの背後を走り抜ける車のライトがまるで後光のように見えました。
早速美味しく頂いたのですが、ふと思いついてしまいました…。
次のエッセイを「思い出の夕張メロン」にすれば北海道に行ったお客さんが…いやいや「思い出の神戸ビーフ」という手もあるぞ…。
と、下校中に魔法のランプを拾ってしまった小学生のごとく期待に胸を膨らませましたが、このエッセイはドラえもんの「あらかじめ日記」のように未来の技術で作られたものでもなければデスノートのように死に神の落とし物に書かれたモノではありません。
たまたま良い偶然があったからといってそこまで期待してはならないでしょう。
とは言え、もしここに書いた願いが叶うなら…と思って読み返してみると、ここに書いてあるのは釜爺の腕とコナン君の頭脳。
もしこの願いが叶ってしまうと、六本の腕は一発芸「千手観音」には最適ですが日常生活には不便そうですし、コナン君の頭脳がパフェ作りに生かせるかは未知数です。
それに何より彼の頭脳は副作用として殺人事件を引き寄せます。
それなら頭脳より若返りを願うかとも考えたのですが、高校生探偵が小学生に戻ったところでたかだか十歳。
五十四歳が四十四歳に戻っても、オッサンがオッサンに戻るだけです。
それに安易に願いをかなえてもらおうとするとジェイコブズの「猿の手」のように「望まぬ方法」で願いが叶ってしまうかもしれません。
いやいや、言霊の国日本の神様はそんな意地悪はしないでしょう。
きちんと努力した子には短冊に書いた願いをそっとかなえてくれるように、頑張る人には優しいのです。
もしかするとマンハッタンを持ってきてくれたお客さんは、神様がお客さんの姿を借りて頑張っている私の願いをかなえてくれたのかもしれません。
そう考えると、あの光は車のライトではなく本当に後光だった様な気がします。
ならば、やはり来月号のタイトルは「神戸ビーフの思い出」か!とも思いましたが、無闇な言挙げは言霊様に迷惑です。
ここは一つ、心からの願いを書くに留めておきましょう。
「来年はもう少し楽に新作パフェを思いつきますようにっ!」



KURIKURI