191号の当選番号は 042 044 057 058 090 です。

新酒祈願


「新しい酒を古い革袋に入れるな」という言葉が聖書にあります。
新しい酒を古い革袋に入れると、革袋は破れてしまい酒も革袋もダメになる。
新しいイエスの教えは、古いユダヤ教の教えの中に入れてしまってはならない、というお話だったと思います。
そんな話を思い出したのが、先日行った京都の茶寮「八翠」でのこと。観光地嵐山の一角にある別世界です。
まず、駐車場に車を停めようとすると、コンシェルジュが優雅に近づいてきて誘導してくれます。
そして、彼の案内に従って門をくぐると、 そこはもう映画のセットのような古式ゆかしき庭園が広がっているのです。
その左手にある築百年を超える苔むした茅葺の建物が「八翠」なのですが、中に入ると板張りでテーブルとイスやソファが置かれている和モダンなカフェなのです。
窓からは翡翠色の川面、その照り返しを受けて輝く木々の若緑、山を覆う森の深緑と、様々なミドリに溢れています。
外にいる観光客は一切目に入らず、視界にあるのは古より連綿と続いてきたであろう風景のみ。
でも、席はスタイリッシュなテーブル席。
古い革袋に新しいお酒が入っています。しかし新しいお酒は古い革袋を破くことなく、むしろ深い味わいを醸し出しているのです。
そんな中でお茶を頂いてきたのですが、鮮烈に記憶に残ったのは「柚子あんみつ」。
一見普通の「あんみつ」です。しかし、柚子寒天が普通じゃなかった!想像以上の鮮烈な香りにまず驚いたのですが、食感が寒天ではありません。
寒天ならばほろりと崩れるはずですし、独特のにおいもあるはずなのですが、それもなし。
ゼラチンのような粘りでもないので、現在ゼリーによく使われているアガーなどを使っているのかもしれません。
肉厚な和食器に盛られ、手間暇かけて炊かれた香り高い小豆に、柚子ゼリー。これもちょっと古い革袋に新しいお酒を入れたような感じです。
聖書が書かれた二千年前とは異なり、今では古い革袋に新しいお酒を入れるのもアリなようです。
ただ、これは蛇足ですが、ウエイターさんが現代風のすらりと長身のイケメンなのがいただけません。
なんせ建物は百年以上前の建造物なのでその時代の身長に合わせて作られています。
そこを背の高い人が料理などをもって歩き回ると、いつかその端正なおでこを鴨居にぶつけてしまうのではないかと気か気じゃないのです。
やはりここは私のように古き時代の身長を持つ人を雇うべきではないでしょうか?
 そこでちょっと気になってきたのは、私自身も相当古い革袋になってきたのではないかということ。
気分的にはまだ若いつもりなのですが、生まれて半世紀以上もたつと色々な所が綻びてきます。
その中で一番気になるのが、新しい事を覚えられないこと。
テレビで歌番組を見ても、新しいグループなんか誰一人顔と名前が一致しませんし、歌とグループ名が結びつくかさえも怪しいものです。
まぁ、こんなことは実用的に何の不便もないからいいのですが、困るのが家庭教師。
高校入試くらいなら古い知識で十分に間に合うからいいのですが、大学入試となると結構新しい知識が要求されたりするのです。
最近困ったのは生物。
DNAの複製や免疫機構なんかは、私の持っている35年以上の前の知識とはまるで異なっているのです。
一応教える前に予習してから臨むのですが、ホンの一時間前に予習した事が出てこないこともしばしば。
今のところ新しい知識が必要なのは生物だけなので何とかなってはいるのですが、将来他の科目でも新しい知識が必要になったら、きっと私も古い革袋のように破れてしまうに違いありません。
今後入試改革で試験の内容も変わっていくようですから、いつまでも家庭教師を続けることはできないかもしれません。
とはいえ、家庭教師は本業でないからいいのですが、困るのはパフェ。
常に新しい技術やら組み合わせやらを取り入れたパフェを作っていくことにしているのですが、ほんとにもうネタ切れ感がハンパありません。
先の京都に行った第一の目的は、相性のいい晴明神社にパフェの新ネタを授けてくれるように祈願すること。
そしてそのお参りの後に八翠に行ったのですが、そこで「新しい酒を古い革袋に入れるな」という言葉を思いついたのは何かの天啓かもしれません。
よくよく考えてみると、今使っているパフェ容器はもう15年以上も同じ形のものを使い続けています。
これを新しい形のパフェ容器に変えれば、以前に作ったパフェと全く同じパフェを作っても新しいパフェに見えるのでは…。
と、思ったけれど、以前作ったパフェのレシピなんか残っていませんし、新しい革袋に古い酒を入れてもいい事はなさそうです。
しかも今回の京都行で得たのは「新しい酒を古い革袋に入れるのも悪くない」ということ。今のまま古き器に新しいパフェを作り続けよ、ということなのでしょう。
柚子あんみつが、あんみつという古い形態を保ちつつ進化したように、ウチのパフェだってまだまだ進化する余地があるに違いありません。
ならば、このパフェ容器のままいきますので、晴明様!新しいパフェのネタをよろしくお願い致します‼



KURIKURI