193号の当選番号は 056 067 080 103 206 です。

文理の法則


新年、あけましておめでとうございます。
今年も、心の底からほっこりとできるお店を目指して頑張っていきますので、よろしくお願い致します。

今年もまた例年の挨拶の使い回し、いつもと変わらぬお正月です。
子どもの頃には年の瀬年始めにはサンタさんにお年玉とワクワクが連続していたのですが、いつの間にやらサンタさんが来なくなっただけでなく、お年玉はあげる立場になっています。
とは言えどんなにオッサンになろうとも、新年を迎えるのは心躍るもの。
何か新しいことが起こるのではないかと、ちょっと期待したりなんかしています。
さて、そんな新年でも頭から離れないのがパフェ。
二週間に一度の新作となると心穏やかでいられるのは新作ができた最初の週だけ。
二週目に入ると頭の片隅にパフェアラートが点灯し始め、金曜日頃には脳内に響き渡る警報で他のことが考えられなくなるほど(嘘)。
そしてこのあたりから試作に入るのですが、たとえ試作で上手くいったからと言って油断はできません。
試作で少量作ったものを通常量で作るとまるで味や食感が違う事は珍しくないのです。
そもそも試作では甘みや酸味などを少しずつ変えながら作るので、一番美味しくなった時の正確な配合量はわからないのです。
まぁそんなものは意地と根性と執念があれば何とかなるのですが、最近よく困るのが飾り。
飾りはパフェの構造が決まった後、それを見たヨメさんのリクエストをもとに何種類か作ります。
そして翌日の写真撮影の時にその中からもっともイメージに合うものをヨメさんが選ぶわけですが、その時よく選ばれてしまうのが「たまたま上手くできたもの」。
色々な形を作っていく中で偶然いい形ができたものはまだいいのですが、困るのが取り扱いが難しくてたまたま数枚生き残ったもの。
例えば11月に作った「お茶とマスカルポーネのパフェ」で使ったメレンゲ。
「薄くて儚い感じ」とのリクエストで作ったのですが、これがなんとも脆い。
焼き上がったものを容器に移そうとするだけで割れ、容器から取り出そうとすると割れ、取り出したメレンゲをパフェに飾ろうとすれば割れる始末。
「ガラス細工のように脆い」なんて言葉がありますが、指ではじいたくらいでは割れないガラス細工など、これに比べれば鋼のごとく頑丈なもの。
このパフェの期間中には実際に使った数の何倍のメレンゲを作ったことか・・・・。 
そして「たまたま上手くできたもの」で思い出したのが、会社員時代の最初のお仕事。
某T○T○(○は伏せ字)という会社に就職し、タイル研究課という所で紙に描かれたデザインをデザイナーが意図する質感通りに工場生産に移すというのがその仕事でした。
要は紙に書いたものを釉薬の上で再現するだけの、誰にでもできる簡単なお仕事のはずです。
しかし、時はバブル。流行語が「24時間働けますか」の時代に、簡単なお仕事なんか与えられません。
ライバルの某INA×(×は伏せ字)では手作業で超高級デザインタイルを作っていたので、某T○T○は生産ラインで作れる最高級のタイルを作るという対抗策を打ち出したのです。
そこで選ばれたデザインの一つがメタリック調のタイル。
朽ちかけた金属をイメージし、金属光沢を残しつつもデコボコに腐食したデザインをタイルに再現しなければならなくなったのです。
しかもそれを従来の印刷機を使った生産ラインで作らなくてはなりません。
様々な薬品で試作しましたが、どうやってもそんなものは作れません。
そんなとき、事業部長が「これがいいじゃないか」と取り上げたのは私が作ったタイル。
まだ仕事に慣れていないために印刷に失敗し、表面の釉薬が剥がれて凸凹ができてしまった再現不能の失敗作です。
しかし、「できるか」と問われれば「できる」と答えてしまうのが理系人間の悲しい性。
ナポレオンの辞書は不可能の文字がない落丁本でしたが、私の辞書にだって不可能の文字は少ししか載っていません。
先輩方の助けを借りつつ、印刷の概念をちょっと覆すことで、何とかかんとか生産ラインで作ることに成功したのです。
めでたし、めでたし。
・・・では終わらないのが会社員。
仕事なんだからできるのは当然と思われ、「これができたのなら、これだってできるだろう」と次々に要求水準が上がり続けたのです。
すまじきものは宮仕え。
会社員は大変です。
で、自営業になったはずなのですが・・・何故か年々パフェの仕上がりに対する要求水準は上がり、常に不可能の文字と格闘する羽目に陥っています。
何でこんなことになったのだろうと考えてみると、これはやっぱり理系人間と文系人間が一緒に仕事をしていることに原因があるようです。
理系人間は物事をその成り立ちから考えますから「これはこの素材をこうやって作ったのだろう」と考え、その延長線上でものを作ろうと思います。
一方文系は結果を感性で捉えますから「これができるのならアレだってできるだろう」と最良の結果だけを考えます。
こうして理系人間の不可能への挑戦は、文系人間の何気ない一言から始まるのです。
ま、そんな具合で今年も新しいパフェを作り続けていきますので、今年もよろしくお願い致します



KURIKURI