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食べる楽しみ


世の中にはちょっと食べてみるだけで、その素材から調理方法まで分析し、見事に再現できる人がいます。
私にはとてもそのような芸当はできず、食べても「ああ美味しいなぁ」くらいしかわかりません。
そんなことで美味しいパフェが作れるのかと疑問に思う方もいるかも知れませんが、私には別の特技があるのです。
それはレシピを見るだけで味の想像ができること。
今、ネット上にはレシピが溢れています。例えば「カスタード レシピ」で検索すると0.29秒で661万件もヒットするのです。
この中にはローカロリーを追求するあまりお菓子と呼べないほど甘みがなかったり、バニラの代わりに八丁味噌を使うなど個性豊かなレシピがあるのですが、それを見るだけでだいたい味や食感がわかるのです。
これはまぁ、過去の失敗作の累々たる屍を乗り越えた経験値によるところが大きいわけですが、それでも一度でも食べたことのある食材なら、一度も組み合わせたことのないレシピでも何とか想像できるのです。
こうして想像した素材を更に脳内で組み合わせることで、何とか二週に一度のハイペースで美味しいパフェを作り上げているのです。
話は変わりますが、先日京都に行ってきました。
目的は言わずと知れたパフェのネタ探し。
東京で人気のパティスリー「デリーモ」が京都にできたので、早速食べに行ってきたのです。
京都駅で奈良に住む娘と合流し、駅構内にある店舗へGo。
東京では大行列ができていると聞いていたのですが、意外に空いています。
並ぶことなく店内に入り、メニューを穴が開くほどガン見して選んだのが、抹茶系の和風パフェにキャラメル系のパフェとほうじ茶系のパンケーキ。
そして出てきたデザートはどれもまた美しい!
メニューの写真でも十分にスタイリッシュな雰囲気は伝わっていたのですが、実際に目にすると溶けたアイスやソースの流れが生み出すこなれ感、素材と素材の間の空間が生み出す抜け感が絶妙な雰囲気を醸し出しているのです。
なんて使い慣れないファッション用語を使ってみましたが、とにかくおしゃれなデザートだったと理解して頂ければ幸いです。
デリーモでお腹を満たした後は城南宮へ。
ここはしだれ梅と椿で知られる神社。
人が作った美しさもいいのですが、自然が生み出す美しさもまた明日のパフェのヒントになるのです。
満開の時期はちょっと過ぎていましたが、苔むした庭園に散らばる深紅の椿や薄桃色の梅の花びらもまた格別の風情があります。
普段の花見は上を向くものですが、ちょっとしゃがんで地面を眺めるという風変わりな花見を楽しむことができました。
さて、再び話は変わりますが、私は味をイメージすることはできるのですが画像をイメージすることができません。
受験戦争を乗り切るために円と直線で構成された画像なら正確にイメージできるようになったのですが、実際の画像となるとアンパンマンがギリギリで、ドラえもんになるとぼんやりとしかイメージできません。
ですから新作パフェ作りの時は脳内でそのできあがりをイメージすることができないのです。
ならばどうやって新作パフェを作るのか。
それはただひたすら色んなパフェの画像を眺めるのです。
私は見ていない物をイメージする能力はありませんが、見ている物からイメージを膨らませていくことはできるのです。
脳内でドラえもんの顔を再現できなくてもドラえもんの落書きを見れば正しいドラえもんをイメージできますし、それをしゃべらせたり怒らせたりすることはできるのです。
ですから色んなパフェの画像を眺めれば、そのパフェ容器をうちのパフェ容器に変換し、味や食感を自由に変えてイメージすることができるのです。
と「できるのです」と断言してみましたが、イメージすることと実際に作り上げるのはまた別の話。
脳内に思い描いたイメージは画像から目を離すと雲散霧消してしまいますから、手元にあるのは幼稚園児が描いたとしか思えないような下手なスケッチだけ。
おまけに夢を白黒でしか見られないほど色彩感覚がないものですから、いざ作り上げてみると想像とはまるで違うものができてしまうこともあるのです。
最近の例では「桜の和パフェ」。小豆クリームとほうじ茶カスタードの間の層にはミックスベリーのゼリーを入れるつもりだったのです。
そしていざ試作してみると予想外の見苦しさ。
抹茶ケーキに挟まれたゼリーの色が主張しすぎて、全体の「和」を乱しまくっているのです。
味も食感も問題ないのですが、この色はいただけません。
しかし、試作期間はあと一日。
テレビならば「絶体絶命のピンチ」のテロップが入る場面です。
しかし、大抵その後「諦めかけたその時」というテロップが入るもの。
この時はヨメさんがベリーシャーベットを砕いて入れることを提案し、更に梅の花びらのようなピンクを苺チョコで作ることで城南宮で見たような風情を再現することができたのです。
二週間で消えてしまうパフェですが、パフェを作る裏側にはこんなドタバタ劇が隠れているのです。
パフェを食べる時に、その素材や製法を分析するのは難しいかもしれません。
でも、作る過程で生まれたであろうドラマを想像するのは簡単ですし、食べるのがより楽しくなるのではないでしょうか。
パフェを眺めながら、ちょっとだけ想像してみてください。



KURIKURI