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幸せのパフェ
平等院鳳凰堂は十円玉の絵柄にあることもあってよく知られた歴史的建造物ですが、隅楼(すみろう)と呼ばれる左右の建物やそこに続く渡り廊下には人が入れないことはあまり知られていません。
渡り廊下は天井までの高さが90㎝ほどしかないため大人が歩けないのはもちろん、タラちゃんでさえもむやみに走り回れば頭頂部がこすれてカッパ頭になりかねません。
まぁそれはそれでおかっぱ頭のワカメちゃんと組んで「Wカッパ」というユニットを組むという手もありますが・・。
そして隅楼はもう少し天井が高いのでワカメちゃんくらいなら自由に歩けるはずですが、ここには入り口がないために、外の柱を伝って忍者のごとく忍び込むしか手がないのです。
では何故隅楼があるかと言えば、それは美しさのため。
鳳凰堂は極楽浄土のイメージサンプルとして作られたため、見た目の美しさが何よりも重視されたのです。
さて、話は変わって先月東京に行ってきました。
目的は言わずと知れたパフェのネタ探し。
先月号に書いたように今年のパフェ祭りは、去年までのように毎週新作を出すのではなく、通常の新作パフェに加えて九月まで月替わりの新作パフェを出すことに変えました。
それでも作るべき新作パフェの数は変わらないので、少しでも多くのネタをストックしておく必要があります。
そんなわけで、パフェ先進地である東京に行って、新しいパフェのネタを仕入れてこようと思ったのです。
そこで都会のパフェを食べ歩いてきたのですが、さすがに世界の最先端を行く東京のパフェは違います。
何と言っても値段が高い!
当店のランチ+珈琲+パフェ<東京のパフェ、という驚異の値段設定が普通に存在するのです。
まぁ今回は特にインスタ映えするような派手なパフェを出すお店を狙っていったのですから仕方のないところではありますが・・。
そして高いお金を取るだけあって、ホントに見た目がスゴイ。
グラスに盛られたムースの上にバベルの塔の如きタワーが建っていたり、金魚鉢のような容器の上に薄雲の如く綿菓子がのせられていたりと、盛り盛りだと思いきや大胆にもグラスの中央に何もない空間があったりと、様々な趣向が凝らされているのです。
そしてこれだけ手が込んでいるのだから、出てくるまでにも時間がかかること!
20~30分くらいは普通ですし、混んでいればそれ以上待つことは覚悟しておかなければなりません。
そして、待ちに待ったパフェがやって来てからも大変です。
美しく盛り付けられたパフェは、その美しさ故に食べにくいのです。
絶妙なバランスで作られているために少しスプーンを入れただけで崩れてしまいますし、華美な装飾はえてして美味しくありませんので脇にどけておく必要があるのです。
そして再び平等院。
先ほど鳳凰堂はイメージサンプルだと言いましたが、少し補足しておきましょう。
平等院が建立された当時の仏教では、極楽浄土を心に強く思い描けば死後に浄土へ転生できるという思想があったのです。
そして、浄土を模した美しい光景を見れば、容易に心に極楽浄土がイメージできるだろうと考えて作られたのがあの鳳凰堂なのです。
だから隅楼に人が入れなかろうと、渡り廊下でタラちゃんがカッパ頭になろうとそんなことは関係なく、ただひたすら美しく調和の取れた建物であることに価値があるのです。
そしてまたまたパフェの話に戻ると、先ほどのパフェもやはり美しさに価値があるのでしょう。
近年のパフェブームでは、普通のパフェをインスタにあげても「いいね」はあまり貰えません。
全国のパフェファンから「いいね」を貰うには芸術的とも言える美しさが必要なのです。
インスタをやっていない私にとっては値段ほどの価値は感じられなかったのですが、お店はとても混んでいましたから、インスタをやっている人にとっては値段以上の満足が得られるパフェなのだと思います。
では当店のパフェはどうなのかというと、食べ物は食べる人が美味しさで幸せを感じるべきものだと考えています。
ですから、パフェの構成は上から下まできっちりと美味しさを感じ続けられるように工夫して作っています。
そして出すタイミングも、特にランチの後などは時間が経つと満腹感に襲われてしまいますから、できるだけ早く提供できるようにしています。
まぁスタッフ二人の店ですから、遅くなってしまうこともあるのですが・・。
このように美味しさを第一に考えてはいるのですが、美しさをないがしろにしているわけではありません。
一流のシェフが作った料理でもビニール袋に入れて食べたら美味しさを感じられないように、見た目だって大切です。
たとえば、この原稿を書いている時点で作っている「チョコとトロピカルフルーツのパフェ」は、涼しげな雰囲気を出すために透明感に気を使いました。
一番下のパッションフルーツゼリーは果肉感を残したために向こうは透けて見えませんが、種を模したチョコ(本物の種は美味しくないので)がほんのり透けるようにしたのです。
さらに、飾りに使っているパイナップルでさえも透明感があるように仕上げています。
しかも透明感を出すために飴煮にしていながらも甘すぎず美味しく食べられるよう、誰も気がつかないような地味な工夫も凝らしているのです。
鳳凰堂のように見るだけで極楽往生ができるほどの御利益はありませんが、見ればちょっとだけ幸せになり、食べるともっと幸せになる、そんなパフェなのです(あくまでも個人の感想です)