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クランチ招来祈願


二ヶ月連続ではありますが、今回もやっぱりパフェのネタが尽きかけているというお話。
いつもならばネタ切れになると京都へ神頼みに行ったり、話題の店へヒントを探しに行ったりするところなのですが、それもままならぬ情勢です。
だからといって昔作ったものと同じものを作ってしまえば、新作を楽しみにして来てくださっているお客さんの期待を裏切ってしまうことになってしまいます。
それに、一度その禁断の手を使ってしまうと、またついその誘惑に負けて同じものを作ってしまう可能性が大。
子どもの頃から勉強でも運動でも続けている内はちゃんと続くのに、一度サボってしまうとそのままやめてしまうことが多いという、極めて意志の弱い人なのです。
 
そんなわけでひたすらネットの世界でパフェ巡りをしているのですが、最近のパフェは妙に凝ったものが多いこと。
パフェグラスは金魚鉢のように丸っこかったり熱帯魚の水槽のように四角かったりと、グラスと呼んでいいものかさえも迷うほど多様化しています。
更に使っている食材も、バジルやら黒酢やら八角やらとパフェ作りよりもキューピー3分クッキングで使いそうな素材が出てきます。
そんな物ばかりを見ていると、ウチのパフェの地味さが気になって仕方なくなるのですが、ウチにはウチの良さがあるのです。
それはわかりやすさ。
例えば紅茶パフェなら最初の一口目から最後のゼリーに至るまで涼しげな香りで一貫していますし、KURIKURIパフェならば飾りのチョコから最後のゼリーまでお茶の香りが楽しめるように作っています。
そしてこの原稿を書いている時点で作っている「苺と桜の春パフェ」ならばテーマは「和」。
桜の香りのアイスに抹茶にほうじ茶に小豆ときてラストは桜の花弁が入った柚子ゼリーで締めくくっています。
ただ、定番のパフェがいつ食べても飽きないようにストレートな組み合わせであるのに対して、新作の方は常に驚きを隠しています。
とはいえ、イタリアンや中華の素材を使うような派手なサプライズではなく、電柱の陰に隠れて「わっ」とおどかす程度の小さな驚きなのですが。
それでも、二週間で消えてしまう一生に一度しか出会えないパフェを思い出す鍵になるのではないかと思っています。
 
話は変わりますが「ビッグクランチ」という言葉をご存じでしょうか?
宇宙の始まりがビッグバンと呼ばれる大爆発で、現在宇宙は光の速さで膨張しているのですが、これがいつか収縮に転じるとそれがビッグクランチになるのです。
ビッグクランチが始まると時間の概念が逆転し、未来が過去になって結果が原因になる、そんな話を三十年ほど前に友達としていたのです。
当時は「できちゃった婚」という言葉が流行り始めていて、これが結果が原因になるビッグクランチにあたるのではないかと、アホな議論を真剣に交わしていたのです。
 
そして、何故こんなことを思い出したかとつらつら考えてみると、原因は「苺と桜の春パフェ」。
このパフェに使った桜と木苺のアイスが犯人です。
桜の香りに木苺の香りや酸味を加えると美味しくなるに違いない。
そう思って試作を開始したのですが、思ったよりも桜の香りが強く木苺の香りが負けてしまいます。
そこで少しずつ木苺を足しながら作って、やっと美味しくできたものでパフェを試作しました。
そこでヨメさんに評価して貰ったのですが、評価ポイントが最も高かったのがその見た目。
凍った木苺のピューレを徐々に足しながら作ったために、薄ピンクのアイスの中に濃いピンクの粒が散り、それが桜の花びらが舞っているようだというのです。
う~む、そこかぁ。
わたし的にはパフェは美味しければそれでいいのですが、ヨメさんとしては美しくなければパフェである資格はないとのこと。
ならば本番でも同じアイスを作らねばなりません。
しかし、試作レベルの少量ならばともかく、小さな粒を均一に散らすのはどう考えても困難です。
しかし、できちゃったもんは仕方ありません、作るしかないでしょう。
と悲壮な決意で作り上げたのが桜と木苺のアイスだったのです。
そしてこの「できちゃったもん」のフレーズが脳内を駆け巡るうちに「できちゃった婚」に誤変換され、ビッグクランチの記憶を引き出したというわけでしょう。
 
まぁ明らかにどうでもいい話ですが、当時は計画性のない若者を揶揄するニュアンスもあった「できちゃった婚」も、今や結婚に踏み切る良いきっかけであるというニュアンスに変わりつつあります。
「できちゃったもん」である桜と木苺のアイスも、時々大きな粒が残るのには悩まされましたが、その美しさでお客さんからは大いに喜ばれました。
できたものはそこから生じる苦労のことなど考えず、できた幸運を喜ぶべきなのでしょう。
 
と、ここまで書いたところで我が身を振り返ってみると、次の「苺と柑橘のパフェ」のアイデアがいまだに固まっていません。
そもそもこの名前を決めたのが遅かった上に、このエッセイのネタにも詰まっていたので考えている時間が無かったのです。
 
「できちゃったもん」が生まれるまで、ビッグクランチでちょっとだけ時間を引き戻して貰えないでしょうか?



KURIKURI