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小石の底力


もし、どこかで友人と待ち合わせをしている時、その友人から「ディオクレティアヌス」とLINEが来たらどうしますか?
誤爆だろうとスルーしますか?それともヤバイ奴になったのかも、とブロックして帰ってしまいますか?
 
そんな話はさておいて、相変わらずエッセイはネタ切れ気味です。
先月の四連休は各観光地が賑わっていたようですが、客商売の身としてはなかなか出歩くわけにもいかず、話のネタが拾えないのです。
そんなわけで、ネットで拾った寓話を一つ紹介しましょう。
 
ある男が娘の就職祝いに埃まみれのオンボロ車をプレゼントしたのです。
男は娘と共にその車に乗って中古車屋に行き、買い取りを依頼したところ「そんな古い車に値段はつけられない」と買い取りを拒否されました。
そこでクズ鉄屋に行ったところ「古い車は分厚い鉄板を使ってるから10万円で買ってあげよう」と言われました。
そして最後にビンテージカーの専門店に行ったところ「この車はマニアにすごく人気があって、しかもこの年式ですぐに乗れるほど整備されたのは珍しいので一千万円で買い取らせてください」と言われたというのです。
 
残念ながらこの後男が娘に何を言ったのかは覚えがないのですが、この寓話が意味するところは「自分の価値が認められないのは、自分に価値がないからではなくてその価値を理解できる人がそこにいないから」というところにあるのではないでしょうか。
まぁもしかすると「こんだけ高いものをあげたんだから、老後の世話はヨ・ロ・シ・ク♪」という話だったかも知れませんが・・。
ただ、私としては不満なのがその車がもともと価値があるものであったということ。
古代ローマの兵士達にとって、塩が給料に値するほど価値があるものであったように、所によってはタダ同然で手に入るものでも必要とする人にとっては大きな価値があるもの。
それこそ道ばたに落ちている石ころでさえも、人によっては大きな価値を見いだすかも知れないのです。
 
だいたい人の価値観というものは千差万別で、わけの分からないものに価値を見いだしたりするもの。
私の場合、「知識の無駄遣い」に結構価値を感じています。
例えば冒頭の「ディオクレティアヌス」は古代ローマ帝国の中興の祖ともいうべき偉人ですが、そんなことに一切関係なく単に「出遅れちまった」と言いたかっただけ。
普段の会話で古代ローマ帝国のことを話す機会なんかないのですが、せっかく高校の世界史で習ったのですから、何かに使わなきゃもったいないじゃないですか!
もし友達からこんなLINEが来たら、私なら「早くコンスタンティヌス」と返すでしょうし、それに対してもし「もうちょい待ってテオドシウス」なんて返事が来たら、もうそいつとは一生涯の友となるしかありません。
 
私は高校卒業以来現在に至るまでほぼずっと家庭教師を行ってきたのですが、若かりし頃は生徒の成績を上げることが一番大切なことだと思っていました。
成績というのはピカピカの新車のようにわかりやすい価値です。
そしてそれだけに軽自動車から高級外車に至るまで序列のつけやすい価値です。
ですから、成績を上げればそれだけ生徒の価値が上がる、と思っていたのです。
確かに成績のよい子にとっては学力はわかりやすい個性ですから大いに伸ばす価値があるでしょう。
しかし成績の良くない子にとって、序列を少しあげることにどれだけの意味があるのか?
そう考えるようになってから、勉強の教え方も少し変わってきたのです。
まぁ当然希望校に入るための学力は必要ですから、そこまでは教えます。
しかし同時に興味のある分野についてはめっちゃ深く教えたり、それに関連した無駄知識を付け加えたりするのです。当然そこは成績に直接関係ないところですから、点数には結びつきません。
しかし、道ばたに転がっている石ころでも、ちょっと変わった模様があったり輝いてるところがあったりすると拾って宝物にする人が現れたりするように、人と違った知識を持っていれば将来そこに価値を感じる人が現れるだろうと思うのです。
 
そしてパフェの話ですが、当店のパフェは「○○産特A××桃」みたいなブランド果実を使うことはほとんどありません。
こんな風に序列がはっきりしたものを使うと、もっといいものを作ろうと思うともっと高級な果実を使うことになり気軽に楽しめる値段で提供できなくなってしまうからです。
うちで使っている素材はたいていそこらで手に入るものばかりですが、その分地味に手間をかけています。今作っている栗アイスや栗ムースに使っている和栗は、剥く時に一個一個においを嗅いで確認しています。
たまに見た目は綺麗なのににおいが良くないのがあるからなのですが、これによって得られる差はわずかなもの。
この差に価値を感じる人は少ないかも知れません。
しかし他にも、焙じ茶はケーキやアイスを作る寸前に自分で焙煎して鮮度抜群のものを使うなど地味な手間をいっぱいかけているのです。
当店のパフェは価値の分かりやすいピカピカの宝石ではありませんが、ちょっと風変わりな小石のように、ずっと心の引き出しにしまっておきたくなるような価値があると思っています。
まぁ、マニア限定かもしれませんが・・・。



KURIKURI