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数学的パフェ論


困ったことにエッセイのネタが思いつきません。
これがコナン君の世界なら毎日のように生活圏内で殺人事件や国際的陰謀が発生している(驚いたことにコナン君の世界はまだ一年も経っていない!)のでネタには困らないことでしょうが、私の生活圏では殺人事件どころか皿が割れるのでさえ月に一度あるかないか。
エッセイのネタなんてそうそう転がっちゃいないのです。
普段ならネタを探しに美味いモノ巡りや観光に出かけるところですが、緊急事態宣言下ではそれもできません。 しかしもう嘆いているヒマはありません。

さっさとエッセイを仕上げて次の「チョコとキャラメルオレンジのパフェ」を考えなければならないのです。
 
そんなわけで、ネタがないのに書き始めたこのエッセイ。
どんな展開になるか自分でも分かりませんが、第一歩を踏み出せたのだからよしとしましょう。
世の中の「できないこと」の99%はこの第一歩を踏み出さないから起きること。
踏み出しさえすれば、どんな形であるにせよ結果は出せるものなのです。
 
例えばこのエッセイを書いている今現在やっている「ミルキーイチゴショートパフェ」。
ショートケーキ風パフェはこれまで何度もやっているものですから、なかなか新しいネタが思いつかずギリギリまで試作を始めることができませんでした。
しかし、「白あんを使ってみよう」と思いついたことで第一歩が踏み出せたのです。
まぁ一歩を踏み出したからといってあとがスルスルできるものでもありません。
白あんとイチゴの組み合わせが美味しいことは分かっていても、それをパフェに活かすにはどうするか。
和風パフェなら餡のまま使えますが、ウチは名前が先に決まっているのでショートケーキ風にするしかないのです。
クリームにして生のイチゴの周りにつめることも考えましたが、これではイチゴ大福の劣化版にしかなりません。
ならばアイスにしようと決めたのですが、小豆と違って白あんは味が淡く、普通の調合では風味すら感じられません。
そこは何とか意地と根性と執念で乗り越え、その淡い味わいにあわせたイチゴムースと合わせる事を決めたのです。
そうなると気になるのがショートケーキになるスポンジ部分。
普通の調合では黄色が目立ってしまうのです。
そこで初めて甜菜糖を使ったスポンジを作ってみたのですが、これがビンゴ!
甜菜糖特有のふんわりとした香りが白あんやイチゴの風味を柔らかく包み込み、とっても優しい味わいを生み出したのです。
そしてコアになる部分さえ決まってしまえばあとは簡単。
上の方は名前通りにミルキーなクリームで作り込み、下は鮮烈な木苺のシャーベットでガツンとアクセントを効かせてからミルキーな練乳仕立てのパンナコッタと果肉入りのイチゴソースで締めくくり。
美しくも美味しいパフェに仕上がりました。
 
しかしまぁ新作パフェには毎回苦労すること。
同じパフェを二度と作らないことにしているから、続けるほどにネタが尽きてきて苦労しているのかと思ったのですが、そうでもないようです。
先ほどエッセイのネタにならないかと去年作ったアイスの種類を数えていたのですが、定番品を含めて25種類以上作っています。
25種類のアイスから、3種類のアイスを選ぶ組み合わせは2300種類。
これにクリームやスポンジなどの組み合わせを加えれば、組み合わせは軽く十万を超えることになるのですから、同じパフェを作らないなんて簡単な話です。
問題はその多すぎる組み合わせの中から美味しいものを選ぶこと。
そしてさらに、毎回何かしら新しいものを作ろうとしていることも問題に拍車をかけています。
新作パフェを作る毎に選択肢が増えていくのですから、決まらないのもむべなるかな。
これだけ脳みそを酷使しているのですから、時々臨時休業をとってしまうのはやむを得ないことだと理解して頂きたい!
 
それにしてもこんな所で高校で習った「順列・組み合わせ」を使うことになるとは思わなかった。
習った時には「こんなものが何の役に立つものか」と思ったものですが、立派にエッセイのネタに使えました。
とは言え、こんなものは机上の計算にすぎません。
例えば丁半ばくちで20回連続負け続ける確率はおよそ100万分の1で、宝くじを十枚買って一等を当てる確率の約二倍。
誰かは当選している以上、あり得る確率のような気もします。
しかし、こんな時はまずイカサマを疑うべきですし、何よりばくちにうつつを抜かしている自分の生活態度を疑うべきなのです。
数学的に考えれば、これから作ることのできるスイーツの種類はさらに増えるでしょうから、幾何級数的に作り得るパフェの種類は増え、選択にかかる時間もそれに比例して増えていくはずです。
単純計算では3年後には週休三日でも追いつかなくなり、10年後には週3時間ほどの営業時間にしないと新作パフェが作れなくなってしまいます。
しかしそんなことにはなりません。美味しいパフェになる組み合わせは限られていますし、経験値は確実に上がってきています。
コナン君のように毎日事件を解決することはできませんが、二週に一回美味しいパフェを作るくらいなら、何とか続けていけることでしょう。
 
ただ・・・時々休みをとってしまうのは、黙って見逃して頂きたい!



KURIKURI