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ゴルディアス的パフェ
とある休日の事、お客さんからハサミを貸して欲しいとの要望がありました。
どうやら息子さんのズボンのひもが固結びになってしまってほどけなくなり、トイレに行けずに困っている様子。
そこでお母さんがハサミでひもを切って事なきを得たのです。
う~む・・なんか、この状況にぴったりの故事成語があったハズ・・・。
と、脳の奥底から引きずり出したのが「ゴルディアスの結び目(Gordian Knot)」という言葉。
あまりメジャーな言葉ではありませんので、ざっくり説明すると『昔々とある神殿に、ゴルディアス王が「この結び目を解いたらアジアの王様になれるぜ」という予言を残した結び目があり、数百年もの間様々な連中がチャレンジしたものの解けず、遠征で通りかかったアレキサンダー大王が剣で結び目をぶった切ったところ、アジアからヨーロッパまでを征服して予言通りアジアの王となった』という話です。
まさにこの状況にぴったりの話で、このお母さんもたぶん今頃はアジアの王にはなれずとも家族の王になっているのではないかと思います。
そして思い出せてスッキリはしたのですが、ネットで語源を調べていて気になったのがその表記。
「Gordian」をどうすれば「ゴルディアス」と読めるのでしょう?
調べてみると「ゴルディアス」はラテン系の読みで「ゴーディアン」はゲルマン系の読み方との事。
言われてみれば、私が習った「アレキサンダー」は今「アレクサンドロス」とラテン系の読みで表記されているようです。
ちなみにアレキサンダーのアラブ系読みは「イスカンダル」。
そう、私世代では誰一人知らぬもののない『宇宙戦艦ヤマト』の目的地である惑星の名前です。
宇宙戦艦ヤマトと言えば、その主題歌と共に「私はイスカンダルのスターシャ」と囁いていた儚げな女性が目に浮かぶのですが、これがもし「アレキサンダーのスターシャ」だったならば吉田沙保里さんのようなたくましい女性がヤマトの到着を待っていた事でしょう。
さて、ものの呼び名と言えばこの時期気になるのが「モンブラン」。
モンブランはフランス語ですが、英語で表記するならば「Mt. Blank(空白の山)」すなわち白い山です。
フランス菓子でモンブランとは栗のケーキの事ではなく、山型で表面に粉糖が振ってあるお菓子の事。
日本のようにウニウニと絞り出している必要もなければ栗である必要さえもないのです。
そして何でこのような話を持ち出してきたかというと、今月下旬に予定している「モンブランパフェ」。
和栗のシーズンなので和栗を使う事は間違いないと思うのですが、ウニウニと絞り出すタイプのパフェは以前に作ってしまったので今回は違う形になるのではないかと思うのです。
もし一般に思い浮かべるような「ウニウニタイプ」でなかったとしても、「モンブランとちゃうやないか」などと思わず、広い心で「こんなモンブランもありやな」と思って頂きたい。
さて、再びゴルディアスの話に戻しましょう。
ウィキペディアによると、このお話の言わんとするところは「手に負えないような難問を誰も思いつかなかった大胆な方法で解決してしまうこと」となっています。
しかし私は、この故事は「問題解決のためには手段にこだわるな」と言いたかったのではないかと思うのです。
人は往々にして手段にこだわるあまり問題解決を不可能だと思ってしまいます。たとえば「100mを10秒以内に走れ」という課題があれば、筋力を鍛えたり靴などの道具を改良する事を考えますが、一般には不可能だという結論になるでしょう。
でも私ならコースを坂道にすることを考えます。
仮に垂直なら自由落下で4.5秒ほどで駆け抜け(?)られますから、60度ほどの急坂にすれば10秒以内に転がり抜けることは可能でしょう。
このように解釈するとゴルディアス的な解決方法はあらゆる場面で役に立つもの。
先ほどのお母さんにもこの話を伝えたところ、次に来られたときに「ゴルディアスって最強ですよね」と目を輝かせていましたから、早速いくつかのシーンで実践されたものと思います。
しかし、この最強ゴルディアスにも欠点があります。
それは技術が磨かれず、結果として進歩がないこと。
先の例でも速く走る努力をした人はそれに見合った体力を得るでしょうが、坂道を転がり落ちるだけではただ怪我をするだけ。
ゴルディアスの結び目に挑んだ方達は、解くことはできなかったかも知れませんが、真剣に結び目に向かい合った分技術は向上したはずです。
現代に生まれたメロウイング・ノットやヴィダリア・ノットなどの複雑かつお洒落なネクタイの結び方は、案外この人達の努力に端を発しているのかも知れません。
そして再びパフェの話に戻すと、当店のパフェはかなりの確率でゴルディアス的解決法に頼っています。
何と言っても二週間に一回以上は新作を出すハイペース。
それでも基礎がしっかりしていれば、基本を応用して何とかできるかも知れません。
しかし私は前職が一般企業の研究職だったため、製菓に関する基礎知識も基本技法も身につけていないのです。
このため解けない結び目に出会うたびにアレキサンダーの剣を振り回して解決してきたのですが、さすがの剛剣も使いすぎで切れ味が鈍ってきました。
これからはヒマを見てはきちんと基礎を学び、Gordian Knotの解決ではなく、Not Gordianできちんと解決できるよう努力したいものである(切れ味鈍い幕切れ…しかも駄洒落オチ…)。