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チカラのミナモト


「ザクザクとしたパイって作れるかな?」。
五月後半の「柑橘カスタードパイパフェ」は、ヨメさんのこの一言から始まりました。
一部マニアの方はご存じのように私はバリバリの理系人。
できるかと問われれば、できると答えるしかありません。
ネットに転がる様々なレシピを参照し、「パート・シュクレ」なる練リパイ生地がザクザクしていることを突き止めたのです。
しかし理系魂はすでに存在しているものを見つけたからと言って満足しません。
そいつをベースに魔改造を重ね、ザックザクのパイを作り上げたのです。
 
ちなみに一口に理系と言っても、「理学系」と「工学系」の二種類に分類できます。
ざっくり言うと理学系は物事の根本を突き止めることを目的とし、工学系はその使い方を追求することを目的とするのです。
従って同じ研究対象に出会って分析を開始したとしても、その後に進む方向は全く逆。
例えば幽霊に出会ったとき、理学系ならば「空気中で浮き上がりも沈み込みもしない以上、幽霊の平均分子量は空気と同程度である」と推定してその組成を探ろうとするでしょうが、工学系なら気温や磁場などの発生条件を突きとめて防犯装置などとして活用できないかと考えるのです。
 
そして私は工学系。
ザックザクのパイができた以上、その活用を考えねばなりません。
まず、できあがったザックザクとはどの程度かと言えば、もしケーキに使ったならばフォークを突き刺す弾みで皿を粉砕しかねないレベル。
パフェに使うにしても、ある程度は砕いて使わねば前歯を粉砕しかねません。
いろいろ調べてみたところ、ビスコッティというザクザクしたお菓子はコーヒーなどに浸して柔らかくし、ザクザクとシトシトを一度に楽しむそうです。
ならばこのパイもアングレーズソースに浸るようにしつつも、全部が浸らないように凍らせたカタラーナでささえて…ザックザクの上にはサクサクの折リパイで食感を変えて・・・。
といった感じでザックザクを中心に組み上げていったのが「柑橘カスタードパイパフェ」だったのです。
 
とまあ文章にすれば一分とかからずに読めそうなほど簡単なことなのですが、このパフェは骨が析れました。
パート・シュクレのレシピにしても、魔改造するには様々なパティシエのレシピを比べて法則性を見いだす必要がありましたし、そこまでしてもパフェではごく一部のパーツに過ぎません。
ザックザクを活かす為のソースにアイスにカスタードクリームにと考えるべきことは山積し、大まかな全体像ができるまでの三日間ほどは、オーダーは間違えるはグラスは割るはのポンコツぶり。
「コイツ大文夫か?」と思ったお客さんも少なからずいたはずです。。。
 
と、わざわざ苦労話を書いたのは、パフェを食べに来ている方達もきっとたくさんの苦労をしてると思うから。
たぶん、私の苦労なんかミジンコほどの小さなものに過ぎません。
しかし、その苦労が詰まったパフェグラスが幸せな時間を生み出していると実感できたら、きっと自分の苦労も誰かの幸せに繋がっていると感じられると思うのです。
 
なんて偉そうなことを言っていますが、もともとはあまり苦労してないふりをしたがるタイプ。
学生時代なんか、「寝オチしちゃって、全然勉強できなかった」なんて言いながら、そこそこいい点を取るのがカッコイイと信じていましたから。
まあ目の下にクマをつくってる奴がそんなこと言ってたって誰も信じちゃいなかったでしょうが。。
でも、あの時正直に頑張っていることを表に出していれば、きっと誰かの頑張る力になれたに違いありません。
 
ちょっと真面目なことを書いたのは、とある本を宣伝するため。
著者は私の人生の師匠であり親友でもある、会社員時代の元上司。
彼は四十歳の夏に事故で頸椎を損傷し、肩から下の自由を失ったのですが、その不自由な身体で自伝的小説を書き上げたのです。
私はその事故の前から30年以上もつきあいが続いているので生活の苦労なんかも結構知っていたつもりなのですが、本を読んで驚きました。
私が見てきた彼の苦労なんて、巨大ジグソーパズルの1ピースくらいのもの。
私の仕事の苦労なんざミジンコの餌にもならないレベルです。
思い返せば、会社員時代から彼は「苦労をしていないふりをする」タイプ。 すっかり編されていました。
そんな彼がこの自伝的小説「ネコと車椅子」を書き上げたのは、たぶん自分の苦労が誰かの力になると思ったからでしょう。
ちょいと文章は硬めですが、読めば今の苦労だけでなく、将来に出会う苦労にだって、きっと力になるに違いありません。
しかも、巻末には私のエッセイのおまけ付き。
これでたったの1250円ですのでゼヒお買い上げ頂きたい!!
 
そしてオマケに宣伝させて頂くと、ここで書いてきた過去のエッセイをまとめたエッセイ本「美味しいパフェの食ベ方」も自っ賛販売中です。
こちらはちょっとお高く1320円になりますが、生活に笑いが不足したとき、手軽に笑顔をチャージができるスグレモノ。
しかも、バックナンバーなどでは見ることのできない、超絶ビミョーな手描きの挿絵もついていますので、日々の活力のために是非ともお買い上げ頂きたい!
・・・と力説するほどのもんじゃないんですが・・





KURIKURI