251号の当選番号は 024 076 080 121 196  です。

若気に至る


ちょいと暑い日が続いていますが、一応世の中は秋。
そして秋と言えば栗。
そんなわけで今年も栗を使ったパフェを作るべく栗剥きをしているのですが、いつも購入している農家さんとこの栗の生育が悪く、ちょっとずつしか送ってもらっていないのです。
先の休日には3キロ程度剥いたのですが、去年は一日に10キロ剥いたこともあるので、この程度では「栗む筋」のウォームアップをしているようなレベル。
土俵入りの前に軽く四股でも踏んでおくかといった感じです。  
とは言え3キロでも剥くにはけっこう時間がかかるので、いつものように映画を観ながらのながら剥き。
今年選んだ第一作目は「風と共に去りぬ」の吹き替え版。
ざっくり言うと、アメリカ南北戦争時代における激しき美女のスカーレットと自信満々のバトラー船長が織りなす「逃げ恥」的なすれ違いモノ。
80年以上も昔の映画ですが、今みても素晴らしい名作。
栗を剥きながらも三時間半はあっと言う間に過ぎ去っていきました。
ただ、途中で気になったのはバトラー君のセリフ。
敗色濃厚な南軍に参加することを決め、スカーレットに別れを告げるとき「弱い奴を見てると力を貸したくなるのは昔からの性分でね」と言ったのです。
確かに場面的には問題ないセリフですが、バトラー君はそんな阿良々木君*のようなお人好しキャラではありません。
そこで見終わってから字幕版で確認すると同じ場面で「失う直前に初めて真価に気がつく質だからさ」になっていました。
これならラストシーンの伏線にもなっていて納得。
吹き替えだと英語の長さと日本語の長さを合わせる制約があるのでしょうが、キャラに一貫性がないのは困ります。
(*阿良々木暦:「化物語」シリーズの主人公で敵味方問わず弱き者を助け、必ずエライ目にあう超絶お人好し)
 
さて、話変わって新作パフェができるまでの話。
フェイスブックのやりとりで「試作にかかる日数は二・三日」と書いたところ、「たったそれだけで」とえらく驚かれてしまったのです。
まぁ確かに、パフェを始めた頃にはその倍くらいの日数の上に日をまたぐほど長時間試作を繰り返したものですが、今は何度も試作を繰り返すのは作ったことのないパーツを作るときくらいのモノ。
作ったことがあるものならば甘みや方向性の調整だけなので、大抵一・二回でOKになるのです。
時間がかかるのは試作ではなくて、パフェの構成を考えること。名前はすでに決まっているので、その名にふさわしいパフェの構成を考えていくのですが、これが大変。
パフェは最初の一口目から最後の一口までで一つの物語になるように作っていくのですが、なまじっか作ることができるパーツが増えたために、その組み合わせだけでも無数にあるのです。
その組み合わせの中から、どんな物語を作っていくのか。
将棋の藤井君のように数十手先まで読むわけではないのですが、将棋の駒よりはるかに多くのパーツが手元にあるので、もうめちゃくちゃ時間がかかるのです。
逆に言うと、物語さえ決まってしまえば、それに沿ったパーツを作っていくだけの簡単なお仕事。 と、言いたいのですが、ここで問題を起こすのが作ったことのないパーツや、作ったことはあっても大幅な仕様変更のあるパーツ。
どう頑張っても想像通りに仕上がらないことがあるのです。
こうなるとバトラー君がお人好しになるが如くストーリー的に違和感のある部分ができてしまうために一から出直しとなって、新作初日ギリギリまで試作を繰りかえす羽目になってしまうのです。
 
再び話変わりますが、私は来年に還暦をむかえます。
そこで、そろそろ盆栽でも始めねば、と思っていたのですが思いのほか老いを感じません。
まぁ肉体的な衰えは若干感じますが、精神的には色んなことの許容範囲が広まってきたのでとっても楽なのです。
例えば先の「風と共に去りぬ」も学生時代に観たとき、スカーレットは周囲の人を巻き込んで傷つけまくるひどい女性と思っていましたが、今回観たときは幼少期から美しすぎたが故に人格形成が遅れただけ、漫画でいうならラシャーヌ君みたいなものだと思えたのです。
バトラー君に至っては、こんな女性を愛し続けるなんて俺なんか足下にも及ばない男の中の男だぜ、と仰ぎ見ていたのが今では「君」付けて呼ぶ始末。
トシをとると色んなことが丸ごと受け入れらるので、生きるのがけっこう楽になるのです。
(*ラシャーヌ:パタリロの作者魔夜峰央が描くギャグ漫画の主人公、いつも想う相手からは想われない破壊的美少年)
 
しかし、禍福はあざなえる縄の如し。
細かいことを気にせず丸ごと受け入れてしまうと、異臭を気にせず完食してハラを壊したり、胡散臭さを気にせず変な仕事に手を出してお縄を頂戴する恐れもあるのです。
そして何よりパフェのこと。
今のところは試作段階に細かな違和感を感じたらすぐに作り直しますが、このままでは違和感を気にせず受け入れてしまうようになるかも知れないのです。
こうなるとせっかく来てくれたお客さんに申し訳ありませんし、当店の未来にも暗雲が立ちこめます。
先月号でネッケツ路線に切り替えると宣言しましたが、それだけでは足りぬよう。
生きるのが楽になるなんて甘いことを言わず、艱難辛苦に立ち向かう青春モードで生きることに致しましょう。
美味しいパフェのために、外見はともかく気だけは若く保っていきますので、今後ともよろしくお願い致します。





KURIKURI