255号の当選番号は 041 084 105 110 198  です。

無敵には無敵を


毎回毎回新作パフェには大いに頭を悩ませているのですが、最近特に悩んだのが「苺カスタードパフェ」。
苺とカスタードなんて鉄板ネタですから簡単だろうと思って名前を決めたのですが、鉄板なだけに何回もパフェに使っていて、たいていの組み合わせはすでに使用済み。
何か新しいことはないかと、電脳空間をカスタードパトロールしていたときにタレコミがあったのが「ガトーバスク」という単語。
調べてみるとフランス・バスク地方に伝わるアーモンドビスケットの生地の中にカスタードクリームとチェリーのコンポートを入れて焼き上げるお菓子だったのです。
当然食べたことはないのですが、レシピを見れば脳内試作で味や食感は分かります。
これを出発点にして、アーモンドビスケットの代わりにアーモンドケーキ、カスタードをヨーグルトカスタード、チェリーコンポートを苺のコンポートにして…
と原型が分からぬほどに改造して、めちゃめちゃ美味しいパフェができあがったのです。
めちゃめちゃとは自画自賛が過ぎると思われるかも知れませんが、これがホントに美味しかったんです。
たった二週間しかやっていないのに二回食べに来た人は数知れず、中には四回も食べた方だっていらっしゃた程。
 
しかし、もしガトーバスクを食べたことがあったなら、どうなっていたでしょう。
たぶん試作以前の段階で、苺は使っていないし生地はザクザクだからとボツになっていたと思われます。
食べたことがないものであったからこそ、自由にイメージを膨らますことができたのではないでしょうか。
 
そして食べたことがない言えば加賀棒茶。
お茶としてなら、たぶん金沢に行ったときあたりに飲んでいると思うのですが、これで作ったお菓子は食べた覚えがありません。
そして、今回の震災で私に何ができるかと言えば、現地のモノでスイーツを作るくらいのこと。
加賀棒茶で甘いデザートを作り、その美味しさをPRしようと思うのです。
そんなわけで加賀棒茶を買ってきて、いろいろ試作してみたのですが、これがなかなか面白い。
加賀棒茶は焙じ茶の一種ではあるのですが、私が作る焙じ茶とは全くの別物。
私は葉っぱが多い緑茶を焙煎して作るので、燻したような香りがあり、味も香りも渋めです。
これに対して、茶葉を殆ど含まず茎だけを浅煎りして作った加賀棒茶は香りも味も超スッキリ。
浅煎りですから旨味成分も残ってます。
そこで第1弾として、バレンタインのお茶三昧生チョコの自家焙煎焙じ茶を今年は加賀棒茶に変えました。
加賀棒茶を微粉砕して練り込むだけではなく表面にもまぶし、スッキリと鼻に抜ける香りを楽しめるように作りましたので、フンフン~♪と鼻歌交じりで食べて頂きたい。
そして、その後も新作パフェに使う予定ではあるのですが、こちらの方は全くの未定。
どのようなモノができあがるのか楽しみにお待ち頂きたい。
 
このように、知らないモノはイメージが膨らませやすいのでなかなか便利ではあるのですが、一つ不安なことがあります。
それは年々知らないことが減っていくこと。
私は年に12回ほど献血するために名古屋に行くのですが、そのたびに献血で減った分くらいの甘い物を買って帰るのです。
そしてその時選ぶのが「知らないモノ」。
新しい素材や組み合わせで、どんな味なのか分からない物を買うのです。
しかし、最近は知らないモノが減ってきて、ついつい好物である福砂屋のカステラを買ってしまうことがしばしば。
このままでは知らぬ甘味がなくなってしまうのでは…と考えたところで気がついた。
私には無類の忘却力がついているじゃないですか!思い起こせば少年時代からすでに忘れんぼ。
縦笛の発表会の日に縦笛を忘れ、一人口パクで乗り切ったのはよき思い出。
参観した母は何も言いませんでしたが、きっと母の前に座っていた人は母の顔から出た火で相当熱かったのではないかと思います。
まぁとにかくそんな具合で筋金入りの忘れん坊に還暦間際の老人力が加わればその忘却力は無敵。
あと数年もあれば、食べたものなど片っ端から忘れ、昨日何食べたどころか、今何食べたかさえも思い出せなくなることでしょう。
いや、そこまで待たずとも、今でも十分な忘却力があるかも知れません。
ガトーバスクを食べた覚えがないのは事実ですが、もしかしたら若い頃食べていた可能性は十分にあるのです。
ただ、食べたときに「ガトーバスク」なんてハイカラな名前を記憶できなかっただけかも知れないのです。
そしてその食べた記憶は、単に硬いクリームパンとして記憶倉庫のパン部門に押し込められ、クリームパンエリアのその他大勢として忘れ去られたのかも…。
ともあれ、この無敵の忘却力があれば、様々なスイーツの名前を聞くだけでイメージを膨らますことができるようになり、次々に美味しいパフェを作れるようになることでしょう。
 
しかし、光あるところに影がある。
何を食べたか忘れるということは何を作ったかも忘れるということ。
今のところ同じパフェを出すことはないのですが、そのうち以前に作ったことをすっかり忘れて毎回同じパフェを出し続けてしまうかも知れないのです。
そこでお願いがあるのですが、お客様においても無敵の忘却力を獲得して頂き、前回食べたパフェのことをすっかり忘れて頂きたいのです。
そうすれば毎回新鮮な美味しさを感じられますので、よろしくお願い致します。





KURIKURI